著:伊藤 公一朗
データ分析手法について説明した本。数式は一切使わず、良質な事例を丁寧に解説することで、データ分析手法の特徴をわかりやすく解説している。著者はシカゴ大学公共政策大学院ハリススクール助教授。主に取り上げられているのは以下の4つの手法である。
・RCT(Randomized Controlled Trial: ランダム化比較試験)。
・RDデザイン(Regression Discontinuity Design:回帰不連続設計法)
・集積分析(Bunching Analysis)
・パネルデータ分析(Panel Data)
取り上げられている手法の数自体は少ない。ただしその分、ひとつひとつの適用例の説明が手厚く親切で、理解しやすく書かれている。節電政策、医療費の自己負担率と年齢の関係、燃費規制と自動車の重量の関係、デンマークの納税データを用いた例などは、大変興味深い分析結果である。消費税を含めた税込価格の提示と税抜き価格を表示するのでは購買行動にどんな変化があるのかも、引き込まれた。
著者は、データ分析を生かすポイントとして、データ分析専門家との協力関係を築くことと、データへのアクセスを開くことの大きく2つを挙げている。アメリカはかなり進んでいるようだが、日本でも企業や政府機関とデータ分析の専門家とのパートナーシップが始まっている。また、適切なデータ分析が見事な結果をみせてくれることがある一方で、それぞれの手法の限界や、適切なデータがそろわないといった場合には手法が優れていても効果的な分析が難しいことが指摘されている。さらに冒頭部分では、注意事項としてデータ分析では相互関係はわかっても因果関係を立証することは難しく、世の中はあやしいデータ分析であふれていることが述べられている。
データ分析の知識がない人でも、例に沿って読んでゆくことで、本当のデータ分析がどういうものなのか誤解なく具体的にイメージしやすく書かれている。さらに知りたい人向けの参考情報も書かれている。
新書、284ページ、光文社、2017/4/18