密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

小説

深い余韻につつまれる見事な傑作。「日の名残り」

著:カズオ イシグロ(Kazuo Ishiguro)、訳:土屋 政雄 カズオ・イシグロの3作目の長編である。 素晴らしい作品だった。英国の執事が主人公である。ソールズベリーの館。新しいアメリカ人の主人に仕える老いたスティーブンス。ミス・ケントンからの手紙。車…

こみあげてくる感動が心をとらえて離さない見事な作品。「わたしを離さないで」

著:カズオ イシグロ、訳:土屋 政雄 「おれはな、よく川の中の二人を考える。どこかにある川で、すごく流れが速いんだ。で、その中に二人がいる。互いに相手にしがみついている。必死でしがみついてるんだけど、結局、流れが強すぎて、かなわん。最後は手を…

今さら読んでみた、「コンビニ人間」

著:村田 紗耶香 第155回芥川賞を受賞して話題になった「コンビニ人間」を、今さらながら読んでみた。 定職に就かず、同じコンビニでのアルバイトを18年間続けている未婚の女性、吉倉恵子が主人公。男性とつきあったことは一度もない。一人で、素朴につつま…

売れる小説って、どう書くの?「ベストセラー小説の書き方」

著:ディーン・R. クーンツ、訳:大出 健 「主人公をピンチに追い込む場合、同情するな」 「主人公につらくあたれ」 「困難は主人公の状況をさらに悪化させるものでなくてはならない」 小説家を目指す場合に知っておいた方がよいコツについてまとめたもので…

宮下奈都は良い作家だし、本屋大賞を受賞し、映画化もされたが。。。『羊と鋼の森』を読んで

著:宮下奈都 宮下奈都は、以前読んだ『スコーレNo.4 』が、とても良かった。地味ながら一人の女性の成長を見事に描いた傑作で、素晴らしい余韻が心に残った。名作だと思った。その同じ著者が書いた別の長編が、本屋大賞に選ばれ、120万部も売れ、映画化もさ…

よろこびの歌

著:宮下 奈都 連絡短編集。他の学校の音楽科の受験に失敗して私立明泉女子高等学校に進学した御木元玲。うどん屋を経営する両親と千夏。16歳にして余生を語る早希。不思議な能力を持つ史香。佳子。ひかり。ボーズや浅原先生。そして。。。細やかな心理描写…

容疑者Xの献身

著:東野 圭吾 推理小説のレビューなので、中身についてあまり詳しくは書かない。 たくさんある東野 圭吾の作品の中でも有名な長編のひとつである。 ただ、読んでいて、実は、最後の50ページまでは、それほど特別な作品だとは思わなかった。しかし。。。終…

前回発生したのは縄文時代。もういつ発生してもおかしくない巨大噴火。そのとき、日本はどうなる?「死都日本」

著:石黒 耀 以前、科学雑誌「ニュートン」で、平均して7000年に1回の割合でこの日本列島で繰り返されてきた巨大噴火についての解説を読んだことがある。 多くの人は、わが国で発生する災害としては巨大地震がもっとも深刻なものだと思っているが、そうでは…

これは泣ける。浅田次郎の長編小説。「天国までの百マイル」

著:浅田 次郎 母の命を乗せて走る100マイルの物語。 これは泣ける。確かに泣ける。かつての事業の成功は過去のものとなり、 離婚して妻子とも別れ、苦しい生活を続ける城所安男。 そんな男が、重度の心臓病を抱え生命の危機を迎えた母親を、借りたワゴン車…

高倉健主演の映画にもなった表題作を含む8作品。平成の泣かせ屋、浅田次郎の傑作短編集。「鉄道員(ぽっぽや)」

著:浅田 次郎 この本は、通勤・通学の電車やバスの中で読むのはおすすめできない。実際、止めておいて本当によかった。 「平成の泣かせ屋」として知られる作家の短編集。 以下の8つの作品が収録されている。 鉄道員(ぽっぽや) ラブ・レター 悪魔 角筈にて…

カズオイシグロらしい長編。「浮世の画家 (ハヤカワepi文庫)」

著:カズオ イシグロ、訳:飛田 茂雄 「わたしを離さないで」「日の名残り」の2つの長編が素晴らしかったので、こちらも読んだ。イギリスと日本という違いはあるが、舞台となっている時代は「日の名残り」と同じで、戦争を挟んだ環境の変化と老境を迎えた主…

八日目の蝉 (中公文庫)

著:角田 光代 交際相手の既婚男性から、 おなかの子供を堕せといわれてそうせざるをえなかった希和子。 しかし今度は、その男性と妻の間に赤ん坊ができ、彼女はその子を誘拐する。 そして、はじまった逃避行。。。いや、なんという小説だろう。 ページをめ…

森絵都の名作。「宇宙のみなしご」

著:森 絵都 孤独を乗り越えてゆく思春期の物語。正直、残りの10ページを切るまでは、 なんだかんだといっても子供向きの話だなと、 多少シニカルなイメージを持ちながら読んでいた。しかし、最後の展開で一気に印象が変わった。 やわらかでやさしい文体で…

夏の庭―The Friends (新潮文庫)(2018年新潮文庫の100冊)

著:湯本 香樹実 死について関心を持った3人の少年。 彼らは、近所の一人暮らしの老人が死にそうだという噂を聞きつけ、 好奇心から毎日観察を始める。そして。。。 泣ける本、という噂だったが、どうやら私は冷徹な人のようで、とくに涙することもなくあっ…

異邦人(2018年新潮文庫の100冊)

著:カミュ、訳:窪田 啓作 有名なカミュの処女作である。「きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない」という有名な書き出しで始まる。そして、殺人を犯してしまった主人公は、動機を「太陽のせい」と答え、処刑を待つ…

きみはポラリス (2018年新潮文庫の100冊)

著:三浦 しをん 人気作家三浦しをんが書いた11編の短編が収められている。どれも恋愛がテーマになっているということで読んでみたが、この恋愛というのが型どおりではない。多彩で、変化に富んでおり、人物設定も、ストーリーも、作品ごとに大きく異なって…

吉本ばななの名作。『キッチン』(2018年新潮文庫の100冊)

著:吉本ばなな 「彼女たちは幸せを生きている。どんなに学んでも、その幸せの域を出ないように教育されている。たぶん、あたたかな両親に。そして、本当に楽しいことを知りはしない。どちらがいいのかなんて、人は選べない」。 吉本ばななの出世作。一世を…

引っ越しを続ける親子。『神様のボート』(2018年新潮文庫の100冊)

著:江國 香織 別れた「あのひと」と再会する日を願って、引越しを繰り返すピアノ教師の女性とその娘の物語。高崎。今市。川越。高萩、佐倉、そして逗子。しかし、東京には行ってはいけない。頻繁に切り替わる母と娘の一人称によって進む。これによってナレ…

森絵都の見事な傑作。『カラフル 』

著:森絵都 「人は自分でも気づかないところで、だれかを救ったり苦しめたりしている。この世があまりにもカラフルだから、ぼくらはいつも迷ってる。どれがほんとの色だかわからなくて。どれが自分の色だかわからなくて」。 なんとも唐突な始まりだ。 死んだ…

森見ワールド全開。誇大妄想型一大純愛絵巻。『夜は短し歩けよ乙女 』

著:森見 登美彦 変わった小説ですね。世の中には、馴染めなかったとか、入っていけなかったという人も何人もいるようですが、大丈夫。そういう人は、たぶん正常です(笑)。 舞台は京都。古風で大げさな表現を散りばめた文体で、現実とも幻想ともつかない調…

すべて音楽がテーマ。カズオ・イシグロの5作品を収めた短編集。『夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 』

著:カズオ・イシグロ カズオ・イシグロの書き下ろしの短編集。副題に「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」とあるように、全て、音楽がテーマになっており、音楽をはさんで男と女がいるストーリーが展開されている。 繊細で品の良い文体で、「老歌手」や「夜…

一人の女性の、少女から大人になるまでの成長を鮮やかに描いた作品。『スコーレNo.4 』

(著:宮下 奈都) 骨董品屋の長女である主人公麻子が、中学生、高校生、大学生を経て、さらに社会に出てその波に揉まれ、大人になってゆく姿を描いた物語。 母や祖母。2人の妹、七葉と紗英。父。いとこ。初恋の人。恋人。職場の同僚。上司。麻子の心の揺ら…

社会派小説家池井戸潤が直木賞を受賞した見事な長編小説。『下町ロケット 』

著:池井戸 潤 「半沢直樹」で一気にブレイクした池井戸潤が、 第145回直木賞を受賞した作品。 その後、TBSのドラマとしてもヒットした。物語開始早々、いきなりの試練連発。 町工場の中小企業を襲う、取引打ち切りに、特許訴訟。 しかし、これらはロケット…

江戸時代のキリシタン弾圧と神の沈黙。海外で映画化された遠藤周作の代表作。『沈黙』

著:遠藤 周作 遠藤周作の代表的な長編小説のひとつ。映画になり、一時話題になったので、読んでみた。徳川家光の時代に長崎に潜入したポルトガルの宣教師が主人公である。当時の厳しいキリシタン弾圧の様子が何度も出てくるため、映画はアメリカではR指定さ…

満願

著:米澤 穂信 短編集。山本周五郎賞受賞。6つの作品が収められている。夜警、死人病、柘榴、万灯、関守、そして満願。 6つの作品はそれぞれ個性も登場人物も設定も違うが、いずれも粒ぞろい。あまりの展開に、読みながら言葉を失い、鳥肌が立った。確かに…

ぐいぐい引き込む見事な社会派長編小説。『空飛ぶタイヤ(下)』

著:池井戸 潤 「半沢直樹シリーズ」で有名になった池井戸 潤の社会派長編小説。こちらは下巻である。巨大グループ企業の立場を利用してあらゆる方面に圧力をかけ、徹底的に隠蔽を図るホープ自動車。ちいさな運送会社の危機がさらに深刻さを増す中、社長の赤…

社会派小説家池井戸潤が実際の事件をヒントに描いた長編小説。『空飛ぶタイヤ(上)』

著:池井戸 潤 「半沢直樹シリーズ」で有名になった池井戸 潤の長編小説。走行中のトレーラから外れたタイヤが母子を直撃。夫と子供を前に病院のベットでその母親は息を引きとる。わずか従業員90人の赤松運送は警察の捜査を受け、マスコミが大々的に報じた事…

カエルの楽園

百田尚樹氏の寓話的小説である「カエルの楽園」についてのレビューです。