著:小口 日出彦
著者は、自民党が政権を失った2009年夏の総選挙直後から同党と契約。情報分析を行って世論の反応やそこから見えてくる方向性について示す役割を務めたという。これは2013年夏の衆議院選挙大勝によって役目を終えるまでのその4年間の仕事を振り返った本である。それほど差しさわりがあるとはいえない内容ではあるものの、政治情勢分析会議を中心として、自民党の関係者が実名とともに何人も登場している。
テレビとネットを組み合わせた分析によって、テレビへの露出が人々にどのように関心を観察する。キーワードの登場回数を時系列に示す。メタデータを駆使しておこなっているという内容自体は、データ分析がどういうものか知っている人には、正直、それほど目新しさは感じない程度のものだ。しかし、この4年間は、今では日本でも当たり前になっている政治の世界での情報分析やネットの活用が、ちょうど本格的になった時期にあたっている。また、自民党が野党になってまた与党に復活するまでの期間でもあり、同時に、民主党が一気に国民の信頼を集めながら凋落していった時期でもある。このため、政治家や政党の戦略にデータやネットが幅を利かせるようになった過程を示す重要な証言記録になっている。
破天荒な言動をしている議員でも結構計算してやっている可能性があることや、SEALDsのような市民運動でのネットの使い方の分析、鳩山と管の2人とは違う野田元総理の特徴や大阪維新の会の橋下氏の強みといったことも振り返っている。「情報の結節点に網を張る」という考え方を述べているところもある。
それにしても、「臨時国会では必ず閣僚の失言、不祥事、政治資金問題が発生する」「年末までに予算編成、税制、マニュフェスト表現のための財源問題で迷走する」「外交政策で党内がまとまらず、総理の方針がぶれる」「党内でも連立与党のあいだでも必ず仲間割れを起こす」という、民主党政権に共通する弱点として挙げられている4つには、思わず苦笑してしまった。もっとも、この弱点はわざわざデータ分析に頼らなくても多くの人はわかっていたと思うが。
新書、224ページ、講談社、2016/7/20