密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

行為の限界、意志の限界、存在の限界。「感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 」(講談社現代新書)

著:高橋 昌一郎

 

 扱われているのは、行為の限界、意志の限界、そして存在の限界。「理性の限界」(2008年)と「知性の限界」(2010年)に続く第三弾。不合理性・不自由性・不条理性を、「感性の限界」としてまとめた本である。

 

 続編であることをそれほど気にせず本書だけでも読めるようになっている。同時に、前著とここで新たに扱われている3つのテーマを含めて、「不可能性・不確実性・不完全性・不可測性・不確実性・不可知性・不合理性・不自由性・不条理性」の9つの視点から多角的に現実世界の限界に迫るという読み方もできる。

 3章構成になっていて、それぞれ次のようなテーマが扱われている。


1.行為の限界

 知覚。ジョン・ワトソンと行動科学。ドーパミンとノルアドレナリンとセロトニンと恋愛感情。カーネマンの行動経済学。認知バイアスとアンカーリング。ブーメラン効果。刷り込み。自立的システムと分析的システム。二重過程理論。認知的不協和。フレーミング効果。


2.意志の限界

 盲目的意志。自由意志。ニーチェの「力への意志」。環境決定論。スタンレー・ミルグラムの「服従実験」。リチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」。複製子と自己増殖と進化。ロボットの叛逆。自由意志の進化。古典力学と決定論。不完全性と不確実性と非決定論。「柔らかい決定論」。


3.存在の限界

 有性生殖と無性生殖。「カント・ミーム」。究極の選択。実在と本質。不条理とカミュ。自殺と盲信と反抗。サルトルと革命。テロリズムと小集団の理論。意識と無意識。心的言語と物的言語。バナールの「宇宙・肉体・悪魔」。

 哲学の本だが、物理や生物など様々な分野の知識が総動員されている。そして、パブロフの犬、マクドナルドのコーヒーやけど訴訟、1年365日フルマラソンを走った人、「全能の神は自分で持ち上げられない石を作ることができるか」、アイヒマン、コルベ神父、ソフィーの選択、スターウォーズ計画といった話がそれぞれの議論に織り交ぜられている。

 また、前作2つと同じように、いろいろな架空の人物が登場する適当さ加減がほどよくて、いい味を出している。知的好奇心を刺激する一冊。

 

新書、272ページ、講談社、2012/4/18

感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)

感性の限界――不合理性・不自由性・不条理性 (講談社現代新書)

  • 作者: 高橋昌一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/04/18
  • メディア: 新書
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