密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実

著:小針 誠

 

 学校で導入が進んでいる「アクティブラーニング」について、日本の教育の歴史を振り返りながら著者の見解を述べた本。2017年3月に改訂・告示された学習指導要領でも、「主体的・対話的で深い学び」という言葉に置き換えられて、アクティブラーニングがうたわれている。

 

 抑制した文体で丁寧に書かれているが、新しい学習指導要領に批判的な立場から書かれている。そして、先行き不透明な未来を生きるためには必要、主体的・能動的に学べる、思考力や意欲が高まる、機会の提供によって達成可能、好ましいこと、といった期待を幻想だとする。

 具体的には、主体的・能動性の強制の是非、実践のむずかしさ、低学力の子は中心的な役割を負いにくく疎外されがちになる、準備も含めて現場の負担が重い、適切な運用が難しい、一コマ完結には時間が足りない、教室の中だけで多様性は育みにくい、意見の対立が人間関係の対立になることもある、意欲や動機付けにも限界がある、といったことを挙げている。

 

 ただ、この本、それでは具体的にどうすればいいかが書かれていない。基本的に批判しているだけである。もちろん、

 

「私たちは理想ばかりを追い求め、語るだけでなく、もう一度立ち止まって、そもそも学力の三要素、アクティブラーニング、主体的・対話的で深い学びの視点がほんとうに好ましいのか、学習指導要領の是非についても、あらためて考えるべき地点に来ています」

 

「子どもたちの学びのあり方を決めるのは、政治家でも行政でも学者でもありません。教育のや学びの主人公は、学校現場の教師とこどもたち自身であって、わたしたち市民はその支援者に過ぎないことを謙虚に自覚するところからはじまるのです」

 

 というようなことは特に異論を唱えるような主張ではないが、問題なのはそれだけでとどまっていることである。とても丁寧な文体ではあるが、批判が中心であって、じゃあ具体的にどうすればいいかが見えない。

 教育の歴史と結びつけているものもあるが、戦後はともかく、軍国主義時代の戦前戦中やそれ以前のかなり古い時代のことは今とはあまりにも時代背景が違う。東京五輪のエンブレム問題と結びつけようとしたり、ちょっと論理的な関係性が飛びすぎていてこれが主張の根拠といえるのだろうか理解しにくい部分も少なからずある。また、著者が教育史の専門家だからというのもあるのだろうが、このテーマについて論じるだけなら本書の教育史の説明はボリュームが多すぎるかもしれない。

 真面目に書かれてはあるが、批判だけで対案がほとんど見られず、加えて、歴史の話はいいのだが、「で、これがアクティブラーニングと何の関係があるの?」と思える記述が多いので、賛否以前の問題として、疑問を感じる本だった。

 

新書、268ページ、講談社、2018/3/15

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

  • 作者: 小針誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 新書