著:海野 弘
2013年に出版された大型本の「クリムト作品集 」も画集としてはとても良かったが、解説等も含めると、グスタフ・クリムト(Gustav Klimt,1862-1918)について今まで日本で出版された中では、この本が最高のものだろう。手に取って、開いて、すぐに、そう確信した。
ムック本サイズで、ぎっしり388ページ。オールカラー印刷。装丁も、デザインも、まさにクリムト調であり、クリムトの小宇宙。とてもよく考えて構成されている。
単純に時系列になっているのではなく、まさにこれぞクリムトというイメージの強い、黄金と闇に関する作品から紹介されている。「ユディットI」「接吻」「ダナエ」「水蛇II」「死と生」「処女」。
ナチスが荒れ狂った時代にユダヤ人のパトロンに庇護されていたクリムトの作品は、受難の運命をたどり、失われたものも少なくない。ウィーン大学の天井画に採用された作品は、その奇抜なテーマをめぐって怒りと議論を呼び起こし、挙句に1945年の戦災で失われてしまって不鮮明な白黒写真と習作しか残っていない。
「ベートーヴェン像」を中心にして構成された第14回分離派展に出展され、壁をコの字型に展開された一連の「ベートーヴェン・フリーズ」は、第9交響曲のテーマに沿って作られたもので、当時の展示形式を紙上で再現しながら、横長の作品を見開きで紹介している。
デザインはアーティストにゆだね、費用も制限なし、という理想的な制作条件で、クリムト、ヨーゼフ・ホフマン、ウィーン工房が完成まで8年をかけて作り上げた「ストックレー・フリーズ」もまた、横長の作品群であり、見開きで鑑賞できるようになっている。ジャポニズムやエジプト芸術の影響についての説明もある。
保守的な美術家組合に反発する若手芸術家たちが結成し、クリムトが会長を務めた「ウィーン分離派」についても詳しく説明があり、代表的な芸術家とその作品についても紹介がある。
クリムトを生み出した世紀末ウィーンについても詳しく書かれている。若いころの作品や寓意画も多数収められている。
一見、値段が張るように見えるが、実物は間違いなくそれだけの価値がある。印刷も良好。素晴らしい。おすすめ。
単行本、388ページ、パイインターナショナル、2018/7/19
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