著:大高 保二郎、松原 典子
エル・グレコ(1541-1614)の作品の特徴と一生について解説した本。オールカラー。薄いが、数多くの作品が掲載されており、ビジュアルに訴えてくる構成になっている。
有名な画家の1人だが、実はその死後から19世紀末までほとんど忘れられていたという。理由は、独特の作風。人体のデフォルメや長身化、合理的な三次元空間の否定、発色の鮮烈な対比など、古典絵画から外れた特徴が目立ち、むしろ近現代の作品に通じる要素が多い。
「セザンヌとエル・グレコは数世紀を隔てつつも、精神的な兄弟である」(フランツ・マルク)という見方まであるくらいだ。まして、グレコが生きていた当時ではかなり異色だったようで、スペイン国王フェリペ2世は「聖マウリティウスの殉教」について、よく描けていても祈る気をそぐ、という趣旨の発言を残しているという。
クレタ島で生まれて、26歳頃にヴェネツィアに渡り、35歳にスペインに移って以降はそこで過ごす。ポスト・ビザンチンの東方的な要素、後期ルネサンスとマニエリスム芸術の影響。
ちょうど、1545年のトリエント公会議によって、カトリックが美術を信仰普及のために活用する方針を打ち出したというタイミングに恵まれて宗教画を数多く手掛けるチャンスを得られたこと。色彩へのこだわり。創作を支えた工房。多額の収入と浪費。報酬をめぐるトラブル。作品の特色とグレコの生涯を一体のものとしてわかりやすく解説されている。
個人的な話になるが、この本は以前上野で「エル・グレコ展」を見るために読んだ。美術展の方は巨大な「無原罪のお宿り」をはじめ、本書に収録されている有名な作品の実物が数多く展示されていてかなり堪能できたし、その予習として読むのに本書はとてもよかった。また、「エル・グレコ展」で販売している画集もかなり気合の入ったもので、しかもページ数がかなりあって解説も細かくて、そちらもよかった。日本ではそこまで有名ではないかもしれないが、すばらしい画家だと思った。
単行本、70ページ、東京美術、2012/10/10
もっと知りたいエル・グレコ 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) [ 大高保二郎 ]
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