著:ニック・メータ、ダン・スタインマン、リンカーン・マーフィー、訳:バーチャレクス・コンサルティング
1.カスタマーサクセスの時代
SaaSモデルに代表されるような定期購入や従量課金制のビジネスが浸透するとともに、カスタマーサクセスは注目を浴びるようになった。文字通り、顧客の成功を実現することを中心においてビジネスを行うという考え方である。そのためには、顧客との継続的なリレーションシップの確立と継続、そこから浮かび上がる顧客ニーズに基づいた製品やサービスの提供が何よりも重要になる。
そのためには、全社的にカスタマーサクセスを重視する組織と文化をトップダウンで作り上げる必要がある。そして、カスタマーサクセスマネージャー(CSM)の役割が重要になる。CSMは、顧客が製品やサービスの価値を最大限引き出せるように手助けする人物である。
特にサブスクではカスタマーサクセスの考え方は重要だ。サブスクでは販売コストを回収できるのは顧客がサービスや製品を使い始めてから何か月もしくは何年か先になるため、顧客が購入するというのは終着点ではなく開始を意味する。できるかぎりチャーンレートを減らし、可能であればクロスセルやアップセルを行うことで顧客の成功を支援し、自社のビジネスの成長につなげる必要がある。
2.カスタマーサクセス実現のための指標、取り組み、顧客層の分類
計測できないものは管理できない。カスタマーサクセスを実現しようとしたら、組織は以下のような指標の意味を正しく理解し、追い求めることが重要になる。
- 総更新数
- 純リテンション率
- 定着率
- LTV(Life Time Value)
- カスタマーヘルス
- チャーン(解約を減らす)
- アップセル
- ダウンセル
- ネットプロモータースコア(NPS)
また、このような指標に基づいて効果的にビジネスを遂行するためには、次のような取り組みが行われる。
- ヘルスチェック
- 四半期ビジネスレビュー(QBR)
- 積極的なアウトリーチ(訪問支援)
- 教育とトレーニング
- ヘルススコアの計測
- リスク評価
- リスク低減プロセス
ただし、ビジネスモデルによって顧客の層は変わり、それぞれ適切なアプローチをしなければならない。
- ハイタッチ:個別対応と人手が必要になるがリターンも大きな顧客
- ロータッチ:最小限の個別対応が求められ、リターンもある程度見込める顧客
- テックタッチ:顧客との接点はテクノロジー主導で行う。
3.カスタマーサクセス実現のための10の原則
本書では、カスタマーサクセスを成功させるための10の原則として、以下のものを挙げて章別に説明している。
原則① 正しい顧客に販売しよう
原則② 顧客とベンダーは何もしなければ離れる
原則③ 顧客が期待しているのは大成功だ
原則④ 絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する
原則⑤ ロイヤルティ構築に、もう個人間の関係はいらない
原則⑥ 本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ
原則⑦ タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう
原則⑧ 顧客の指標を深く理解する
原則⑨ ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める
原則⑩ トップダウンかつ全社レベルで取り組む
4.最後に
カスタマーサクセスの成功の中心になるのは、ロイヤリティの創出、特に心理ロイヤリティの創出である。カスタマーサクセスが進展した未来は顧客がますます力をつける時代であり、カスタマーエコノミーの時代になるとされている。カスタマーサクセスが叫ばれる中、その意義と具体的な施策をどのようにして顧客の成功とそれを通じた自社の成長を実現するのかを理解する上で有意義な本だった。
単行本、英治出版 、368ページ、2018/6/6
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則
- 作者:ニック・メータ,ダン・スタインマン,リンカーン・マーフィー
- 発売日: 2018/06/06
- メディア: Kindle版