編集:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
「ハーバード・ビジネス・レビュー」に過去に掲載された論文からマーケティングに関するもの10本選んで掲載した本。
第1章 「営業とマーケティングの壁を壊す」は、マーケティングの神様コトラー教授らが、互いに反発しがちなこともあるマーケティング部門と営業部門が互いの役割と強みを生かしてビジネスを創出し、クロージングしてゆくべきかについて書かれている。
第2章 「セグメンテーションという悪弊」は、これも大物のクリステンセン教授が登場。「消費者は4分の1インチ径のドリを買いたいのではない。彼らがほしいのは4分の1インチの穴だ」という例えを持ち出しながら、ドリルを売りたいならドリルではなく穴のことを考えるべきであり、セグメンテーションはその答えにはならない、としている。ブランドも、あくまでもそのニーズのイメージに結び付いた目的ブランドであれば高い効果があるとしている。
第3章 「マーケティング近視眼」では、レビット教授が、「いずれの場合も成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである、失敗の原因は経営者にある。つまるところ、責任ある経営者とは、重要な目的と方針に対応できる経営者である」として、例を示している。そして、「真のマーケティングマインドを持った企業は、消費者が買いたくなるような値打ちのある製品やサービスを創造しようとする、売ろうとするのは、製品やサービスそのものだけではない。それがそのような形で、いつ、どのような状況下で、どのような取引条件により、どのように顧客に提供されるのか、ということも含めて売ろうとするのだ」と述べている。
第4章 「マーケティング再考」では、顧客に関する情報を収集し知見を得る技術が発達し双方向化が進んだ現代では、取引ということより、CLV(顧客生涯価値)を最大化することに焦点を移すべきであり、そのためにはマーケティングの在り方も、製品マネージャー志向から顧客マネージャー志向に移っていかなければならないとしている。その違いとしては、以下の表がわかりやすいだろう。
OLD APPROACH |
NEW APPROACH |
製品の収益性 |
顧客の収益性 |
直近の売上 |
CLV(顧客生涯価値) |
カスタマー・エクイティ(CLVの総額) |
|
市場シェア |
カスタマー・エクイティ・シェア |
第5章 「顧客ロイヤルティを測る究極の質問」では、顧客アンケートでもっとも重要な質問は、「その商品やサービスを他の人に紹介したいと思いますか」であり、そこに現れる顧客ロイヤリティの獲得が重要だとする。
第6章 「つながりのブランディング」では、顧客との接点が多様化していること、そしてその多角的な接点からCDJ(顧客の購買意思決定の旅:Customer Decision Journey)を中核とした戦略について解説している。
第7章 「ブランド評価の新手法:ブランド・リポート・カード」では、以下の10のポイントでの評価を提唱している。
・顧客が望むメリットを提供している
・ブランドの関係性が維持されている
・顧客価値に基づいて価格戦略を立てる
・ブランドポジショニングを適正化する
・ブランドに一貫性がある
・ブランドポートフォリオとブランドの階層を整合させる
・顧客から見たブランドの姿をブランドマネージャーが理解している
・ブランドを適切かつ長期的にサポートしている
・ブランドエクイティの源泉を定期的にモニターしている
第8章 「ブランド・コミュニティ:七つの神話と現実」では、ブランド・コミュニティの誤解について以下の点から解説している。
[神話]ブランド・コミュニティは、マーケティング戦略である
[現実]ブランド・コミュニティは、事業戦略である
[神話]ブランド・コミュニティは企業のために存在する
[現実]ブランド・コミュニティはそこに集まる人たちのために存在する
[神話]ブランドを確立すれば、コミュニティがついてくる
[現実]コミュニティづくりに工夫をこらすことで、ブランドが強化される
[神話]ブランド・コミュニティは、ロイヤリティの高いブランド支持者のための「愛の祭典」でなければならない
[現実]賢明な企業は、対立を歓迎し、コミュニティをにぎわせる
[神話]オピニオンリーダーが、強力なコミットを築き上げる
[現実]ブランド・コミュニティは、メンバーがそれぞれの役割を果たす時、最も強固になる
[神話]オンライン・ソーシャル・ネットワークは、コミュニティ戦略の鍵である
[現実]オンライン。ソーシャル・ネットワークは、コミュニティ戦略ではなく単なるツールである
[神話]ブランド・コミュニティは、厳格なマネジメントとコントロールによって成功する
[現実]ブランド・コミュニティは、人々のものであり、人々によって成り立っており、マネジメントとコントロールを受け付けない
第9章 「女性の消費力が世界経済を動かす」では、世界経済における女性消費の存在感が増していることを指摘し、「エリート女性」「超多忙主婦」「生活エンジョイ派」「自力生計派」「ゆうゆうシニア層」「家計ひっ迫層」に分けながら、食、フィットネス、美容、衣、金融、医療という分野での消費拡大の可能性について説明している。
第10章 「法人営業は提案力で決まる」では、法人営業は売り手主体で顧客不在になりがちであるとし、顧客バリュープロポジションを提案するために、「すべての長所を列挙する」「優位点を列挙する」「顧客ニーズに的を絞る」の3種類について説明している。
質の高い論文が多い。古いものもあるが、それらは今や常識となりつつあることが多いので、一般人でも学ぶ意味がある。
単行本、288ページ、ダイヤモンド社、2017/12/21
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