著:佐藤 康宏
「若冲と蕭白(しょうはく)、大雅と蕪村、応挙と蘆雪らが次々と新奇の試みを絵画に打ち出していたのが18世紀の京都画壇だった。同時期の江戸はというと、春信から清長、春章、歌麿から初期の北斎に至る浮世絵師たちが錦絵や絵本に叙情性や現実感を競い合っていた」。
江戸中期の絵画師、伊藤若冲(1716-1800)についての本。A4より少し小さく100ページに満たないが、オールカラーで、主要作品とその見どころが鮮やかな色彩とともにわかりやすく紹介されている。著者は「若冲が中心にいないような美術史は、美術史の方が間違っていると思い続けてきた」という、筋金入りの若冲好きの大学教授。「はじめに」には、「750年後の同志に向けて」という小見出しが付いている。
作風と作品の特徴及び齢を経るごとの変化について、いろいろな角度から解説が行われている。狩野派の技法を学び、宋・元の絵画を模倣し、次第に自らの画風を確立していったこと。鶏からはじまり草木・鳥獣・虫魚にひろがった写生。約10年をかけて完成させた花鳥画30連の「動植綵絵」の細部にわたる緻密な描写。水墨画、版画、障壁画、押絵貼屏風、画巻。升目描き技法、筆触分割。若冲工房の弟子達の作品との違い。
関連する人物や若冲の人生についてもうまくまとめられている。青物問屋を継いで17年後に次弟に家業を譲り、絵画中心で生きていったこと。禅への傾倒。若冲の文書記録を残した大典、絶賛した売茶翁、同時代の鬼才である曾我蕭白、収集家の木村けんか堂。京都の市場をめぐる騒動。天明の大火で焼け出されたこと。経済的な打撃。死の年にまで旺盛だった創作意欲。
コンパクトなサイズに、若冲の作品の特徴とその魅力のエッセンスをぎゅっと収めた、格好の入門書である。
単行本、95ページ、東京美術、2011/7/30
もっと知りたい伊藤若冲改訂版 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション) [ 佐藤康宏 ]
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