著:田中 隆之
総合商社という形態は他の国に無いということではないが、基本的には日本独自のものといえる。学術研究的な視点から、総合商社の歴史や変遷について述べた本である。著者は元銀行出身で経済学専攻の大学教授。固めの書きぶりの文章だが、淡々とよくまとめられている。
総合商社は次のような収益モデルを持っている。昨CやEへ収益の軸足を移しつつあるという。
A.コミッション(口銭)収入
B.リスクの高い自己勘定取引による売買差益(マージン)
C.製造業やサービス業の事業運営収益
D.売掛金などの商業金融や関連会社への貸付などの金融機能を通じた収入
E.事業投資からの配当や持ち分法投資損益のような事業投資の収入
F.コンサルや信用保証のようなサービスの手数料
一方、現在の総合商社は、以下のような2つの軸と4つの方向性でバランスをとっており、各社でこのどこに力点を置くかで違いも出ている。
図1.総合商社の2つの軸と4つの方向性
また、著者は、「総合商社原論特別研究会」の分析をたたき台にして、総合商社の行方については、以下の3つの要素から解説を行っている。
図2. 総合商社の3つの要素
総合商社は、最初から現在のような形であったのではなく、歴史上いくつも転換点があった。その度に事業内容や構成が変化し、淘汰や再編も生じた。
戦前には「総合商社」という呼び方はなかった。貿易の担い手として重要だった幕末から明治。財閥の中の役割の重要性。戦時下のアジアの経済圏でも商社は重要な役割を担う。
戦後は戦後で、繊維や鉄鋼などの専門商社が総合商社化し、三井物産や三菱商事といった財閥系が復活。さらに合同化が生じる。資源の確保と輸入に重要な役割を果たし、単純なモノの輸出はメーカー直接取引に押されていくもののプラント輸出は活況を呈し、日米貿易摩擦においては輸入拡大の取り組みを行い、都市開発や不動産ビジネスも展開していった。さらに、バブル崩壊の対応として7大商社に再編されてゆく。資源価格の下落が総合商社のビジネスモデル変革を迫る。
総合商社は日本独特のものなので、海外投資家からはわかりにくい。いろいろな事業を手掛けているので「コングロマリット・ディスカウント」といわれる複合事業構造をかかえて大きいゆえに評価が小さくなる現象も生じる。
著者は、今後の総合商社の展開として、投資会社化、資源会社化、事業運営の肥大化、専門商社化の4つの可能性について論じている。
そのうえで、今後の課題として、非資源分野への積極的な展開、価格の下落に負けない資源・エネルギービジネスへのかかわり、成長率の高い新興国・途上国ニーズの取り込み、総合商社という形態に対する国際的な認知度向上の4つを挙げている。
新書、280ページ、祥伝社、2017/3/2