著:野田 稔
経営戦略についてやさしく書かれた本。いろんな経営理論を著者の経験と知識に基づいて咀嚼して解説している。
戦略とは強くなることではなく、勝つためのものである。
経営に唯一絶対の正解はなく、時の流れとともに変化する。
経営理念は変わらないが、経営戦略は変わる。
ドラッカーは、企業の社会的役割を「顧客の創造」と定義している。
経営戦略には、大きくは以下の2つがある。
1.コストリーダーシップ(低コスト化)戦略
2.差別化戦略
コストリーダーシップは単なる安売りではない。単なる安売りだと体力を消耗するだけになるからだ。コストリーダーシップ実現のためには、以下のようなことがポイントになる。
・規模の経済性の追求
・習熟度を高めることによる効率化
・キャパシティ(空きスペースや回線の利用等)
・連結関係
・相互関係
・タイミング(先行者利得など)
・自由裁量できる政策
・ロケーション(コストの安い地域に工場を作る)
・制度要因(政府の規制など)
差別化戦略としては次のようなものが紹介されている。ただし、その要素を価格に転嫁できない場合は、差別化戦略ではない。
・大量の特許を押さえる
・ブランド戦略
・ニッチなマーケットを特殊技術でおさえる
・製品単体ではなくサービスも含めた総合力
・顧客を知り尽くした特殊な営業チャネル
・老舗の歴史的コネクション
・店舗設計や接客の工夫
S:セグメンテーション
T:ターゲティング
P:ポジショニング
また、企業を、「製品ラインナップの豊かさ」と「競争力の高低」の組み合わせで4つに分類。それぞれのパターン別に、適した戦略パターンをとるようにする。
PPM(Product Portfolio Management)では、「市場成長率」「市場占有率」の2つの高低で4象限を作り、それぞれのパターンに適した戦略をとる。基本的には、市場成長率が低くなったが収益性の維持できている分野で稼いだおカネを、まだ市場占有率は低いが成長性の高い市場へ投入するのがセオリー。
しかし、実際は、成功体験が足かせとなって、成長しなくなった主力事業に投資し続ける一方、有望な新規市場への投資が後回しになることもある。いわゆるイノベーションのジレンマである。
ビジネスドメインの設定は重要で、そこを間違えると事業は成長しない。スタート時の構想力が、その後の発展につながる。夢を描き語ることが経営戦略につながるのはそれが理由である。
ドメインを設定したら、そのドメインを踏まえたビジネスモデル確定する必要がある。
・誰に(マーケット)
・どのような価値を(商品やサービス)
・どのように提供するか(製造方法や販売法やブランド戦略)
・どのようにして課金するか(課金方法と課金先)
重要なポイントなのにおろそかになりがちなのが、課金の問題である。課金には以下の3つがあり、工夫することでビジネスの成功につながる場合がある。
・抜く:中間マージンをとる(商社や広告代理店)
・張る:投資利益を得る(投資会社)
・乗せる:利益を乗せる(製造業)
経営戦略には5つの流派がある。
1.戦略計画学派
2.創発戦略学派
3.ポジショニング・ビュー
4.リソース・ベースド・ビュー
5.ゲーム理論的アプローチ
イノベーションを起こす未来企業には、次の3つの特徴がある。共通するのは、オープン性ということになる。また、高い志を持つことも重要である。
・内なるレジエンス:知性と知恵を駆使して社会とのつながりを築く
・社内外の壁を取り払う:企業と社会を一体の存在としてとらえる
・グローバルな課題に立ち向かう:複数のステークホルダーとの協力が必要
経営戦略の考え方は人生にも生かせる。例えば、自分自身に対して、以下の問いに答えてみる。
・自分の人生の目的、働く目的は何か?
・自分が生かせる強みはどこにあるのか?
・自分のとるべきポジションはどこにあるのか?
・もし戦う場面があるなら、勝つためには何をすればいいのか?
経営戦略はいろんな本が出ていて、どれが良いかは目的による。深いものを求めるより、ざっと平易に、経営戦略とはどういうものか知りたいという人向けである。
新書、208ページ、SBクリエイティブ、2017/6/6