著:松橋 麻利
いわゆる印象派の音楽家といわれるドビッシーについて紹介した本。著者は19世紀から20世紀前半のフランス音楽の専門家。
本書の特徴は2つある。まず、第一に、ドビッシー研究家で有名だった故フランソワ・ルシュールが2005年にまとめて出版したドビッシーの書簡集と2003年の伝記を反映していることである。それ以外のアメリカやイギリスの注目すべき研究成果にも目を通し、これまでの誤った言い伝えや見方を修正している。
2つ目の特徴としてあげたいのが、付録部分の充実ぶりである。未完のものも含めて生涯に作った作品の一覧、年表、地図、作品解説がついていて、これらが全体の1/3以上を占めている。
複数のテーマに分けて書かれてあるので同じ事件が何度も登場したりする箇所もあるが、多くの文献を参照し、本文もきっちり書かれている。
音楽とはあまり関係のない家庭に生まれながら、たまたま父が収容所で知り合った音楽家のシバリに才能を見出され、短期間で頭角を現してパリ国立音楽院に入学する。
しかし、音楽院ではその斬新過ぎる技法が教師たちの怒りに触れる。時代の先端をゆく音楽家であったがために、作品を発表するごとに何度も音楽界の意見が真っ二つに分かれた様子も詳しく描かれている。
かつて愛した女性たちへの仕打ちや、人間関係の軋轢、経済的な困窮、影響を受けた人との関係についても丁寧に追っている。
サティやショーソンやストラビンスキーといった音楽家たちとの親交。ラベルとの反目の原因。詩人たちからの影響や、様々な歌曲についての作成経緯についても丁寧に解説している。作品としては、特に「ぺリアスとメリザンド」や「牧神の午後の前奏曲」の上演までの経緯や世間の反応が興味深い。
フランス音楽のみならず、近現代音楽に関心のある人には、お勧めの一冊となっている。
単行本、272ページ、音楽之友社、2007/5/10