著:宮下奈都
宮下奈都は、以前読んだ『スコーレNo.4 』が、とても良かった。地味ながら一人の女性の成長を見事に描いた傑作で、素晴らしい余韻が心に残った。名作だと思った。その同じ著者が書いた別の長編が、本屋大賞に選ばれ、120万部も売れ、映画化もされたという。文庫化されたし、これはぜひ読んでみたいと思って、手に取った。
主人公はピアノの調律師。高校を卒業して専門の学校で学び、見習いの調律師になった若者が、異なる個性の先輩たちのプロフェッショナリズムや、調律の現場、お客様の姉妹といった人たちと触れ合いながら成長の道を歩む、という話である。
テーマと着眼点はとても良い長編である。実際に何人かの調律師に取材してナマの声を集めて生かしているそうで、その人たちへの謝辞も書かれている。また、この著者は内容はこの作品とは全く異なるが音楽をテーマにした『よろこびの歌』という小説を過去にも書いており、音楽というジャンルについてはもともと関心が強くあったのだろう。
ただ、どうだろう。はっきりいって、面白くない。もう少し別の軸を加えて立体的な話にするとか、タイムスパンを長くするとか、もっと工夫する余地があったのではないか。狭いところで、繊細なタッチで、きれいごとだけまとめて終わりにした感じである。
本屋大賞に選ばれ、120万部も売れ、映画化されたのだから、きっと、良い作品だと思う人や感動した人も大勢いるのだろう。加えて、過去に読んだ同じ作家の作品が良かっただけに、こちらの期待が大きすぎたのかもしれない。ただ、正直、そこまでの作品かな、と思う。何より、私は面白いとは思わなかったし、特に感動もしなかった。
文庫、274ページ、文藝春秋、2018/2/9