密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

一人の女性の、少女から大人になるまでの成長を鮮やかに描いた作品。『スコーレNo.4 』

(著:宮下 奈都)


 骨董品屋の長女である主人公麻子が、中学生、高校生、大学生を経て、さらに社会に出てその波に揉まれ、大人になってゆく姿を描いた物語。

 母や祖母。2人の妹、七葉と紗英。父。いとこ。初恋の人。恋人。職場の同僚。上司。麻子の心の揺らぎ、葛藤、密かな痛手や決意が、繊細に、丁寧に描かれている。

 

「いいことも、悪いことも、涙が出そうなくらいうれしいことも、切ないことも、扉の向こうの深いところでつながっている」。

 
 実は、No3に入るまでは、良い小説だけれど、少々地味で、面白さという点ではかならずしもそれほどでもないかな、と思いながら読んでいた。しかし、いろいろな経験や苦しみから学んだことが、時を経るにしたがって意外な形で現在とシンクロし、麻子の人間的な成長につながってゆく様子があきらかになるにつれ、強く引き込まれていった。見事な作品である。巻末で北上次郎が書いている解説も、なかなか良い。

 

文庫、316ページ、光文社、2009/11/10

 

スコーレNo.4 (光文社文庫)

スコーレNo.4 (光文社文庫)

  • 作者: 宮下奈都
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: 文庫
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