密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「儲かる会社」の財務諸表 48の実例で身につく経営力・会計力

著:山根 節

 

「会計とリアリティを結ぶクセをつけると、無味乾燥に見える財務諸表が立体化し、企業経営の豊かな表情が表れてくるのだ。要は経営と数字を不可分にし、経営を数字と絡めて語ることが大事である」。


 企業経営の姿を、公開されている情報と実際の会計資料(BSとPL)から読み解いた例を示した本。著者によると、会計から企業の状況を理解するのに大切なのは、いきなりディテールをみるのではなく、以下の5つだという。

1.本物の財務諸表をできるだけたくさん読む
2.ビジュアルで大くくりにとらえる
3.BS(貸借対照表)とPL(損益計算書)が先決でCFS(キャッシュフロー計算書)は後回しでよい
4.わからない専門用語はとりあえず無視しても良い
5.現場・現物・現実の情報とリンクしてみる

 本書で主に用いられているのは、実際の財務諸表を金額の大きさに合わせてその比率がわかるように変換した「比例縮尺財務表」である。この表のメリットは、BSの大きさ、PLの大きさ、利益の大きさが、比率の違いとしてパッとひと目で理解できる点にある。大きな数字が大きく見えて、小さい数字は目立たなくなるから、その会社の経営に大きな影響を与えている特徴的な数字がすぐにわかる。違う会社同士の比較もやりやすい。

 赤字に苦しむシャープ、不適切問題があった東芝、金融は好調なソニーといった、電器各社のPLとBSからよみとれること。グーグルとマイクロソフトの比較。大きなのれん代が目立つソフトバンク。世界一を競っているトヨタフォルクスワーゲンの対比から見えてくる両社の共通点と相違点。ブリヂストンコマツの高い営業利益率を支えているもの。セブンイレブンの強さを他のコンビニの財務諸表との比較から読み解く。なぜユニクロはこんなに儲かっているのか、そしてそのユニクロよりも利益率が高いニトリの秘密。金融で稼ぐ楽天、利益は少ないが資金的には余裕のあるアマゾン。利益が急降下した武田薬品。セグメント別の数字を見ると違いが見えてくる、サントリー、アサヒ、キリン。有形固定資産が大きい三菱地所棚卸資産が大きな三井不動産。送変電設備が最大資産である日本の電力会社。

 とにかく、ひたすら具体例が並んでいるので、面白い。財務諸表といえども、貨幣価値に反応しないものは直接的な形では見えにくいという欠点はあるが、会計の数字には経営の状況や特徴がかなり反映されているものだということが実感としてわかる。本書の最初の方で紹介されている京セラの創業者である稲盛和夫氏の言葉にあるように、「経営を飛行機の操縦に例えるならば、会計データは経営のコックピットにある計器にあらわれる数字に相当する」というものだということがよくわかる。

 

新書、294ページ、光文社、2015/9/16

 

「儲かる会社」の財務諸表 48の実例で身につく経営力・会計力 (光文社新書)

「儲かる会社」の財務諸表 48の実例で身につく経営力・会計力 (光文社新書)

  • 作者: 山根節
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/09/16
  • メディア: 新書