密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

重要なのは方法論やツールでなく対話。そして、定説をうのみにせずきちんと考えること。「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」

著:カレン・フェラン、訳:神崎 朗子

 

 ずいぶん派手な邦題をつけたものだと思ったら、そうではなく、原題からして「I'm Sorry I Broke Your Company」だった。

 経験30年の米国のベテランのコンサルタントが、今まで自分がかかわった仕事に基づき、経営やコンサルティングさらにはマネージメント理論に関して、実務的な視点からみると本当はどうなのか、についての意見をまとめた本。

 たくさんのお金を払ってコンサルタントを雇いながら、良好な結果を出せず、そのうちその会社が傾いてしまうという例は実際に著者が経験した中でいくつかあるようだ。大企業が「正しい経営」のせいで消える、とすら書かれている。

 逆に、経営陣がコンサルタントの言うことを聞かず自ら判断した新規投資が当たる、というケースにも触れられている。

 「戦略計画」は役に立たない。数字で管理できるのは数字だけ。経営本で「手本」とされた企業の半数は凋落している。

 コンサルが残す資料よりもその過程で自分たちで学んだり発見することが重要。将来を予測することなど不可能に近い。しかし、戦略開発の目的を見出し、想定外の事態に対応する知恵を蓄えることならできる。

 単純な「話し合い」こそ効果的。関係者全員で取り組まなければどんな方法論を使ってもうまくいかない。

 数値目標は弊害を生み、指標の導入で無意味な仕事が増える。業績管理システムは士気を落とす。

 客観的な人事評価などありえない。業界平均を少し上回る給与がベスト。コーチングとフィードバックでは人は育たない。

 「ピーターの法則」はジョークではない。受けたくなる研修しか意味がない。人間性を向上させることを考えるべき。

 また、シックスシグマ、ROE、リエンジニアリング、ポーター、フィッシュボーン・チャート、BSC、タレントマネージメントと、有名な経営やマネージメントに関する考え方についての実務からみた意見も書かれている。

 
 最後の付録はよくできている。例えば、マネージメントについての正しい方法を見分ける真偽判定表は、次のようになっている。

・業績給やインセンティブ報酬は従業員をやる気にさせて会社に役立つ→偽
・数値目標は従業員をやる気にさせて業績向上に役立つ→偽
・従業員評価スコアは従業員の業績向上に役立つ→偽
・会社が成功するには優れた戦略が必要→証明されていない
・リーダーになるには一定の特性が必要→証明されていない
・人のマネージメントには優れた対人スキルが求められる→真
・従業員に投資を行う企業はそうでない企業に比べて業績が良い→真

 

また、以下のように、科学的方法を生かす4つのステップを活用すべきであると勧められている。

ステップ1.調査、分析、精査し、問題を定義する
ステップ2.調査結果にもとづいて仮説を立てる
ステップ3.実験を行い、仮説を検証する
ステップ4.実験結果を見定め、ステップ3を繰り返す

 「コンサルタントが役に立つとき、役に立たないとき」という表もよくできている。もっとも、本当に多くの企業がこれを実践したら、コンサルティング会社の業務は大幅に縮小を迫られるかもしれないが。

 結局、企業は人、そして円滑なコミュニケーションなのだな、と改めて思った。そして、「定説」をうのみにせず、それが本当に自分たちに当てはまるのか、よく考えること。「問題を起こすのも人間なら、それを解決できるのも人間。実に単純明快ではないか」ということだ。良い本だ。

 

文庫、336ページ、大和書房、2018/6/9

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 ~コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする~ (だいわ文庫 G)

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 ~コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする~ (だいわ文庫 G)

  • 作者: カレン・フェラン,神崎朗子
  • 出版社/メーカー: 大和書房
  • 発売日: 2018/06/09
  • メディア: 文庫