著:左巻 健男
水に関しての様々な疑似科学を紹介してそれについての検証を行い、科学リテラシーを身につける必要性を説く本です。タイトル自体に「水は答えを知っている」という本への批判がこめられています。
「ありがとう」と書いた紙を貼った容器で凍らせた氷の結晶はきれいで「ばかやろう」と書いた紙では汚い結晶になるというような説を多くの学校の先生方が信じて広めていたというのはなかなかすごい話ですが、この本を読んでから、ここで批判されている江本勝氏の本のAmazonの5つ星レビューを読んでみると、さらにいろいろ考えさせられます。
一般向けに易しく書いてあり、分量も少なめなので、科学関連の本を読みなれていない方でも敷居は低いと思います。ただ、水というのはその固有の分子構造のために反応性の高い様々な性質を持った物質なので、本書の説明だけではちょっと物足りないと思う方もいるかもしれません。さらに詳しく知りたい人のために参考文献リストを充実させたりする工夫があっても良かったかもしれません。
本書は2007年の発売ですが、その後も「血液サラサラ効果」に代表されるような新たな擬似科学が登場しています。また、本書に詳しい解説はないのですが、末期ガン患者の中には疑似科学商品に大金をはたいている人たちが多くいることもよく知られています。笑えない話です。次々新手が出てくるこのようなものに引っかからないようにするためには、結局は著者が述べているように、各自が正しい科学リテラシーを身につけてゆくしかないのでしょう。しかし一方で、世の中の全ての人にそれを求めるのは酷ではないかという気がします。だから、ニセ科学はなくならないのでしょうが。もう少し、別な提言も欲しい気がしました。
科学と社会そして人間心理との関係について、いろいろなことを考えさせてくれるきっかけになるという点で、なかなか良い本だと思います。
新書、182ページ、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2007/2/25