著:スティーヴン ホーキング、レナード ムロディナウ、訳:佐藤 勝彦
「M理論はアインシュタインが夢見ていた統一理論です。単なる素粒子の集まりである私たち人間が、私たちと宇宙を支配する法則の理解にここまで近づいていることは偉大な勝利です」。
ホーキングの"The Grand Design"の日本語版。古典物理と量子物理の基本的な概念をおさらいした上で、宇宙の成り立ちに関する現代物理の最新理論を紹介している。
ある程度の前提知識がある人向けになるが、確固とした宇宙観に基づいてポイントが整理されているので読みやすい。また、適度にユーモアを交えたりして、読者の興味を最後まで切らないように考慮された構成になっている。特に、宇宙の起源を量子論に基づいて順に解説している部分の展開は巧みで、大変面白く読めた。ただし、著者独自の斬新な理論が披露されているというわけではない。
本書のもうひとつの特徴として、宗教が示す創造論や哲学に対しての著者の見解が示されている点が挙げられる。「宇宙を生成して発展させるのに神に訴える必要はないのです」と断言し、哲学にいたっては「現代の科学の進歩、特に物理学の進歩についていくことができなくなっています」と、なかなか手厳しい。
印刷は良質。説明用として様々なカラー写真があちこちに入っている。日本語の文章として自然に読んで理解できるので、翻訳にも特に問題は感じない。
単行本、272ページ、エクスナレッジ、2010/12/16