密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ヘンな論文

著:サンキュータツオ

 

 おススメの一冊。大真面目に書かれた変わった研究論文を探して紹介した本である。著者は日本初の「学者芸人」。一般人の常識を見透かしたツッコミを各所に入れながら、面白おかしく、見つけた珍論文の数々を紹介している。

 「河原町のジュリー」の噂の分析。公園の斜面に座るカップルの行動と他人との距離の関係の観察。浮気していて家庭も円満な男性は、何をどう考えているのか。あくびはなぜうつるのか。インスタントコーヒーをかき混ぜる音がなぜ変わるのか。女子高が共学になると一体どうなるか。猫の癒し効果。なぞかけと面白さの反応の関係の調査。オリックス・バファローズにおける元近鉄ファンと元BWファンの違い。現役の床山たちへのアンケート調査。単語数が13万7335個ある標準的な国語辞典で計算した場合に一番長いしりとりは5万6519単語続く。「おっぱいとブラの揺れ」の関係。湯たんぽの研究。こういった研究が紹介されている。写真と短いコメントだけだが、「洗面ボールと使いやすさに関する一実験」も興味を引く。

 著者の名調子によるガイドがなかなかいい味を出していて、これによって「これが一体何の役に立つの?」の一言で終わってしまいそうな数多くのほとんど埋もれたような論文が輝きを放っている。

 また、著者は単に面白い研究を紹介するだけでなく、「珍論文には、役得がないかわりに、純度の高い情熱が詰まっている」とあるように、純粋に興味のあるものを学術的な手法で徹底的に調べようとする研究者たちへの敬意が十分に払われている。

 実際、本書ではその論文を書いた研究者と連絡を取った後日談も各所で添えられているのだが、地味な研究がこうして発掘され日の目をみて、取り上げてもらった研究者たちはみんな結構嬉しそうである。湯たんぽの研究をしていた70歳で退官した名誉教授は、大学に引き取ってもらえず家族からも明らかに邪魔物扱いされている湯たんぽコレクションを紹介しながら、いきなり延々と4時間も話してくれたらしい。この生活学の大家の伊藤紀之という先生の「大量生産の過程を経るとデザインは必ずファッション化の道をたどる」という指摘はなかなか鋭いと思った。

 面白おかしくツッコミを入れながらも、真剣に珍研究に取り組む研究者たちへの純粋な情熱に対する敬意が伝わってくる。それにしても、つくづく、日本は平和な国だと思った。

 

文庫、240ページ、KADOKAWA、2017/11/25

 

ヘンな論文 (角川文庫)

ヘンな論文 (角川文庫)