密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

もっと変な論文

 

 著:サンキュータツオ

 

「美しい夕景を見たとき、それを絵に描く人もいれば、文章に書く人もいるし、歌で感動を表現する人がいる。

 しかし、そういう人たちの中に、その景色の美しさの理由を知りたくて、色素を解析したり構図の配置を計算したり、空気と気温を計る人がいる。それが研究する、ということである。

 だから、研究論文は、画家や作家や歌手と並列の、アウトプットされた『表現』でもある。無枠だという人もいれば、最高に素敵だという人もいるだろう。美しいものを支配する法則もまた美しい。研究は未来を予見する表現だ」(本書より)

 

「変な論文」の続編。埋もれている世の中の無数の論文の中から、何も役には立たないかもしれないが面白いものを著者が見つけて査読し、名調子で紹介している。前作に負けず劣らず、「よくぞまあ、こんなことを労力費やして研究したな」と、感心させられるものがいくつもある。

 

1本目:プロ野球選手と結婚する方法

プロ野球選手たちにアンケートをとり、一部インタビューも行い、「本研究は、プロ野球選手に憧れを抱く20代を中心とする女性の手助けとなるよう、プロ野球選手と結婚するための方法論を策定することを目的とし、調査を行った」もの。ネタバレになるので詳しくは書かないが、家事手伝い、姉さん女房といったキーワードがある。

 

2本目:「追いかけてくるもの」研究

夜中にクルマを運転していると後ろからお婆さんが追いかけてくるーよくあるこの手の話を各地で調査し、そこから、老人型・脚部欠如型・よつんばい型・獣+人型・乗り物型・首無しライダー型の6つの形態があることを明らかにした研究。

 

3本目:徹底調査! 縄文時代の栗サイズ

稲作が十分発達していなかった縄文時代において極めて重要な食べ物であった栗について、大きさ指数を編み出して年代による比較を行った研究。

 

4本目:かぐや姫のおじいさんは何歳か

実は竹取物語の原作には70歳ととれる箇所と50歳ととれる箇所がある。さて真実はどうなのか?どうやったらわかるのか?

 

番外編1 お色気論文大集合

「男女の下着の嗜好性と印象の評価」

「パンツの着崩れに関する研究」

「デート中の性行動の期待と正当性についての男女の認知差」

「デート状況と性行動の正当性認知との関係」

 

5本目:大人が本気でカブトムシ観察

小学生の自由研究のようなネタでありながら、カブトムシのメスの起き上がり方には3種類あることを述べた論文。

 

6本目:競艇場のユルさについて

これは論文というよりも、半分観察記に近い。

 

7本目 前世の記憶をもつ子ども

学術的には「過去生」と呼ぶ前世の記憶を持つTomo君の研究。

 

番外編2 偉大な街の研究者

街に落ちている片手袋について体系的に調査した研究と、「走れメロス」の全力が実はそれほどの速度ではなかったことを検証した中学生の論文が秀逸。

 

8本目:鍼灸はマンガにどれだけ出てくるか

たったこれだけのテーマのために、マンガ1015タイトル、合計10421冊を総勢7名で手分けして調査。

 

9本目:花札図像学的考察

予想より面白かった。鹿が横を向いているのは「シカト」の意味だとか、最後の12月が桐なのは最後だから「キリ」にかけているとか。頭韻、脚韻、頭脚韻、しりとりもある。桜に幕がついているのは「まんかいにまんまく」という「まん」の頭韻。「フジ→じちょう」のしりとりの関係といった解説と異説への反論。

 

10本目 その1: 「坊ちゃん」と瀬戸内航路

10本目 その2: 「坊ちゃん」と瀬戸内航路 後日譚

西村京太郎も顔負けのすごい調査と推理で、従来説の誤りと正しい経路を完全調査。そして、その論文の著者との対面記。調べる、形にする、発信することの大切さ。

 

この続編も大変面白かった。第3弾、第4弾を、ぜひ期待したい。

 

単行本、256ページ、KADOKAWA、2017/5/29

 

もっとヘンな論文

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