著:有田 正規
科学研究分野の問題点と著者の考える方策を書いた本。雑誌の連載を一冊にまとめたもの。著者は生命情報科学を専門とする理学博士。主に生命科学の分野をテーマにした本だが、嘆きを交えた半分エッセイのような感じで書かれており、特に前提知識はいらない。むしろ、科学に疎い人の方が、インパクトを受けるかもしれない。
実用化重視による疲れ。成果重視による疲れ。科学の商業化。カネまみれで実態はショービジネス・パッケージと化している国際会議。一握りの研究ボスに集まる人とカネと地位と権力。有名雑誌に論文が掲載されることを過剰に尊重するCNS病(「Cell」「Nature」「Science」の頭文字に由来)。実はぼろ儲けしているオープンアクセス。増え続ける論文数の背景にある評価の仕組みと、論文の質への影響。
製薬会社が臨床前研究の論文成果を検証したところ、再現性が得られたのは25%に過ぎなかったという。
情報の維持・管理コスト。公的資金で生まれた研究は成果は誰のものなのか。トップダウン研究と不正。科学の技術化。このようなことが書かれてある。なかなか深刻である。
書かれている問題点の中には、日本独特のものもあるが、国際会議や論文に関する問題のように大なり小なり世界的な傾向といえるものもある。いくつか著者なりの対策案は書かれているものの、少なくとも日本に限らない世界的な潮流と関係することについては、日本で日本語の本として出版して嘆いてみても変えるのはなかなか難しいだろうな、と思った。
また、成果主義というのはどのような分野においても直接成果にならない部分に歪みをもたらすものであるものの、だからといって国費が投入されている研究で成果や実用性が求められるのは致し方がない面がある。なぜなら、国費は税金であり、国民のおカネであり、いくらおカネがあっても足りない高齢者や貧しい人たちへの福祉などだけでなく自分たちの研究にもカネを寄こせというのであれば、やはりそれなりの社会的な成果が期待されるのは当然だろう。
それに、なんだかんだといっても、低成長と停滞感が漂う日本において、例外的に予算が増額され続けてきた日本の科学研究の世界は、予算配分の分野としては全体的には比較的恵まれてきたともいえる。
いずれにせよ、日本の科学が抱える構造的な問題の一端を知るには、一読の価値のある本である。
単行本、128ページ、岩波書店、2016/2/25