著:苅谷 剛彦
「教育が果たすべき役割はますます重要で複雑になる。にもかかわらず、教育に割ける資源は減ってゆく。教育の担い手の質や量の確保の問題も深刻化していくだろう。かつてのような国による統制の強いしくみではうまくいかない。とはいえ、むやみな規制緩和や分権化が問題を解説できるという見通しも楽観的すぎる」。(本書より)
2008年に発売された本の文庫化になる。著者は教育問題に詳しい研究者。様々なデータやアンケート分析に基づく主張を行っているのが特徴。特に、重回帰分析を用いて、家庭環境と学力及び学習習慣の間に大きな関係があることを指摘し、特に所得階層や生活習慣と学力の間の相関関係をはっきりと明らかにしているところは説得力がある。
知識社会の到来によって、学びかたを学ぶことが重要。自分探しが大衆化して教育の世界で一般化したことによる弊害。また、苦しい教育予算の中でのやりくりの問題。重くなる現場の負担。教員高齢化と大量退職によって発生する退職金や新規教員募集に潜む懸念。一面的な世間の批判に振り回される教育界。予算はなく時間も限られているのに、教育への要求は増え、新自由主義と新保守主義の影響を受けて国の教育方針も揺れ動く。
少し古い本であり、データは既に昔のものだし、その後35人学級や高校無償化、ゆとり教育見直しが行なわれた点についても本文には反映されていない。しかし、だからこそ、かえって、日本の教育を巡る問題は本質的には何も解決されていないことがわかる。
尚、兼子仁という人との対話が納められている。苅谷氏はうまく流しながら持論を丁寧に説明するように運んでいるが、この兼子という人の主張の根拠と論理的な組み立ての方はよくわからなかった。それから、あとがきを内田樹が書いており、ひところ流行った「下流社会」という本は、苅谷氏に触発されて書いたと述べられている。
文庫、344ページ、朝日新聞出版、2012/8/7