著:苅谷 剛彦
「教育の社会学入門」という副題の方が、この本の中身をよく表しているかもしれない。中学生を念頭に書かれているが、教育に多少なりとも関心のある全ての人にとって一読のある内容になっている。このような問題については答えはひとつではないので、各自がしっかり考えてみることが重要とした上で、そのために必要な材料として、著者なりの考察結果や見聞を披露している。以下の8つのテーマについて論じられている。
- どうして勉強するの?:答えはひとつではない。また、実は今の教室の形態は一人の先生が多数の生徒を教えるのに効率的な仕組みとして発展したもの。
- 試験の秘密:能力は能力の基準をどう考えるかで変わってくる。ただし、一定の時間内で発揮される能力が重視されるのは社会の特徴を反映している面がある。
- 校則はなぜあるの?:「正しい行動」かどうかよりも「正しい態度」を見るための物差しである。そして、少人数の大人が多数の子どもの集団を効率良く管理していくために必要なもの。実は多くの大人は、中学時代の外見と立派な大人になるかどうかは直接関係無いと知っている。
- 教科書って何だろう:内容を統一することで、地方や先生によるバラつきを防いだ。しかし、近年は日本が多様化に向かう一方で、元々ばらばらだったイギリスは画一化に向かった。社会の考え方を反映してそうなっている。
- 隠れたカリキュラム:学校は集団の場。授業以外にも集団行動をとるのに必要ないろいろな要素を学ぶようにできている。だから秩序を重んじる。たまにはその前提を疑ってみることも必要かもしれない。
- 先生の世界:勉強以外の指導も多くの先生は仕事だと思っている。しかし、年々社会が子どもの成長に関する役割分担をしなくなり先生の負担がずいぶん増えた。アメリカでは授業を教える先生と生徒指導の先生は別。
- 生徒の世界:「ひとりひとり」の原則と「みんないっしょ」の原則を学校の中でどうバランスよくおさめてゆくかがポイント。
- 学校と社会のつながり:どんな家庭に生まれるかで教育に差が出る傾向がある。そして日本は世界では恵まれた国。その点に気付き、恵まれた人ほど「自分で選べない責任」について考えてみよう。
この本が特徴的なのは、これら全ての問題を学校という閉じた世界の中で考えるのではなく、「世の中」及び「日本」という社会の仕組みや構造の中でとらえている点だろう。つまり、教育の問題の答えがひとつではなくいろいろな意見が出るのは、それが社会と密接につながったものであり、社会自体も変化するものだからだ、という見方を具体的に教えてくれる。少し古いところもあるが、いろいろ考えさせる内容である。
文庫、248ページ、筑摩書房、2005/12/1