密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものと考えており、このブログを立ち上げました。日々読んできた本の備忘録を兼ねた書評と内容の概要紹介及び読書感想をまとめたブックレビューのブログです。過去に別名でAmazonのレビュー欄に掲載したものとそちらには未掲載のものがあり、後者は「Amazonレビュー欄未掲載」タグをつけてあります。

カラヴァッジョの秘密

著:コスタンティーノ・ドラッツィオ、訳:上野 真弓

 

 ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ( Michelangelo Merisi da Caravaggio,1571-1610)について書かれた本である。著者はローマ現代アート美術館の展覧会キューレーターを務めるイタリア人。

 

 カラヴァッジョは無数にいる画家の中でも、極めて劇的な人生をおくった画家として有名である。言動に問題があり、けんかっ早く、殺人を犯してローマ教皇直々の死刑判決を受け、誰であろうとこの男を殺してよい、という宣告がされた。逃げ込んだマルタ島では、マルタ騎士団の庇護をうけながら有力者の逆鱗に触れて復讐の対象となり投獄されて、脱獄する。絵画で大金を手にしておきながら、それをどうしたのかわかっていない。弟子もとっていない。

 

 その一方で、彼の残した作品はルネサンス時代の模倣が続いていたイタリアの絵画の世界に旋風をもたらす。光の効果を計算し陰影を駆使した手法は、謎の多い彼の死のあとも、パルトロメオ・マンフレッディらによって研究され、アルプスを越えてその後のオランダやスペインの画家たちに大変大きな影響を与える。絵画を布教の道具として利用していたカトリック教会が芸術家に対して定めた規則の数々をも破り、近代画に道を開く人間的で劇的な表現を追求する。

 

「カラヴァッジョが永遠に生き続けるのは、彼を惨めな最期に引きずった不運や常軌を逸した性格が語られるのではない。何よりも、彼の絵が力強く魅力的であるからだ。カラヴァッジョの絵は、今日なお、我々の視線を誘惑し、暴かなければならない謎を秘めているのである」(本書より)

 

 本書では、カラヴァッジョの人生をたどりながら、どのような作品がどういう背景で生まれ、それぞれどのような特徴があるのか、それはどこから来るのかについて、一般向けに丁寧に解説している。基本的に白黒印刷だが、口絵部分はカラーになっており、本文で言及されている主要な作品はすべてこの口絵部分の印刷で確認できる。

 

 カラヴァッジョの出世作であり有名な「バッカス」。庇護を受けたフランチェスコ・マリア・デル・モンテ枢機卿が魅了された「女占い師」「トランプいかさま師」。「ロレートの聖母」の聖母マリアは当時の娼婦たちがモデルであること。公開処刑を見たことを「洗礼者聖ヨハネの斬首」に生かしたこと。「聖マタイの殉教」はX線分析の結果、一度完成間際までいったものを上から描き替えたことがわかっており、それはこの絵が置かれるコンタレッリ礼拝堂の自然光を考慮したことが大きな理由のひとつになっていること。近年のカラヴァッジョ研究でわかってきたことも幅広く取り上げられている。何しろ、当時から有名な画家であり、また悪さをいろいろした人だけに、残された当時の犯罪に関する記録も手掛かりになる。

 

 本場イタリアで書かれた本だけに、内容自体はなかなか良い。訳者あとがきを読むと、原書ではイタリア古語のままの引用が多く、翻訳作業は簡単なものではなかったようだ。あまり売れ筋とは言えない本を丁寧に日本語訳した訳者の労もねぎらいたい。

 

 目次

第1章 常軌を逸した人格と成功への執着
第2章 最初の歩み、最初の欺瞞
第3章 誘惑のトリック
第4章 異色の枢機卿
第5章 一世一代のチャンス
第6章 聖女と娼婦
第7章 逃亡
第8章 落ち着く間もなく
第9章 予告された死
第10章 永遠に生きる

 

単行本、221ページ、河出書房新社、2017/10/26

カラヴァッジョの秘密

カラヴァッジョの秘密

  • 作者: コスタンティーノ・ドラッツィオ,上野真弓
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2017/10/26
  • メディア: 単行本