著:百田尚樹
書き下ろしの小説。旅に出たアマガエルのソクラテスとロベルトが、苦難の末にたどり着いたナパージュ国の話になっている。読むとすぐわかるが、このナパージュ国は日本であり、ナパージュ国のカエルたちは日本人であり、明確に、日本人への警告を秘めた寓話である。
読みやすい。それほど分量もない。ストーリーは明快で、狙いもはっきりしている。ウシガエルをはじめ、何が何に例えられているかも、すぐわかる。
小説なのでこれ以上はあまり詳しくは書かないが、三戒をめぐって繰り返される議論や、これを徹底擁護するカエルたちの一派の存在とその主張には、この国で世論に影響力を行使してきた勢力の存在や内向けとしては耳当たりよく響くが実は具体的な根拠を欠いた現実離れの理想が各所に反映されている。ナパージュがたどる運命も象徴的だ。非常にシンプルな小説であるが、込められたメッセージは重い。
つい先日も、「朝まで生テレビ!」に出演したお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔という人が、「(尖閣諸島は)僕は取られてもいいです。明け渡します」「(沖縄は)もともと、でも中国から取ったんでしょ?」「僕は全部それ(戦力、交戦権)放棄した方がいいかなと思うんです」「(中国が攻めてきたら)殺されます。だって誰かを殺すわけでしょ?」と述べて炎上している。
ただ、今までこのような主張をしてきた人たちは別に珍しいわけではない。社会党関係者はもちろん、2013年に「(尖閣諸島は)中国側から『日本が盗んだ』と思われても仕方がない」などと香港紙で発言していた元総理大臣の鳩山由紀夫など、軍備増強を推し進める中国に海を挟んで隣り合うこの国の現状は、まだまだナパージュ国のカエルたちの水準である。日本はけしてこのように悲劇的な運命をたどってはならない。
文庫、288ページ、新潮社 、2017/8/27