著:浅田 次郎
「近ごろ鏡を見るたび、ハゲがさまになってきたな、と思う…(中略)…主体がハゲ。パーソナリティがハゲ。アイデンティティーのありかがハゲ。浅田ハゲ次郎…(中略)…感無量である。ハゲみにもなる」。
直木賞作家で、現代日本文学界をリードし続けているうちの一人、浅田次郎のエッセイ集。
しかし、本書を読む限り、まったく、しょうがないオヤジですね、このちょっとお茶目な文豪は(笑)。
体重増加を嘆きながら2袋目のポップコーンに手を伸ばす。自衛隊元歩兵を豪語しながら、仕事をしている日は1日に380歩しか歩かない。ラスベガスでVIP扱いになるくらい博打が好き。自分の馬を所有するほど競馬にも入れ上げる。取材を兼ねてあちこち旅行を重ね、北京ダックが大好物で、特別注文のスペシャルジャガーを乗り回す。ちょっと新規の出版数が減ると、過去の所得に対する税金の支払いがあやしくなる。。。まあ、他にもいろいろあるプライベートな逸話は本書を読んでいただくにしても、ユーモアと読者へのサービス精神が満載。しかも、ところどころ教養を感じさせる説明や含蓄のある指摘もさりげなく含んでいる。
数多くの締め切りに追われながら作品はいまだに原稿用紙に直接手書きしているのだという。それにしても、文章の滑らかさと、展開のうまさはさすがである。そして、読みはじめたら最後、読者を虜にしてしまう。ちょっと古い世代の感覚かなというのは多少あるにせよ、気軽に楽しく読める見事なエッセイ集である。
文庫、253ページ、小学館、2011/9/6