密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

木に学べ―法隆寺・薬師寺の美

著:西岡 常一

 

「棟梁いうものは何かいいましたら、『棟梁は、木のクセを見抜いて、それを適材適所に使う』ことやね」

「わたしは法隆寺の修理や解体で、飛鳥の工人たちにたくさんのことを教わりました」

 

 法隆寺の解体大修理や薬師寺の伽藍再建を指揮した宮大工、西岡常一棟梁が生前に雑誌の連載のために取材を受けた記録を一冊の本にまとめたものである。

 法隆寺と薬師寺という日本を代表する建造物を実際に案内しながら解説しており、棟梁の確かな経験と、特に法隆寺の解体修理から学んだ先人の知恵に基づく非常に含蓄のある知見が各所で披露されている。結果として、日本の伝統建築やそれを支えてきた文化を深く理解する上で恰好の一冊となっている。

 

 構造の重要さ。室町時代以降の建築物は構造をおろそかにした装飾主体のものが多いと述べている。

 ヒノキの選び方にしても、山や育ってきた環境をきちんと理解してヒノキを選び、木のクセを読みながら使う。樹齢の長いヒノキが日本には存在しないため法隆寺や薬師寺の修理・再建にあたっては台湾からヒノキを調達したのだという。

 釘ひとつとっても手間ヒマかけて作った飛鳥時代の鉄でつくった和釘は現代のものとは保ちが違うし、ヤリガンナで仕上げたものは電気カンナとは木の表面の滑らかさが違うため水を吸収しにくく長持ちするのだという。

 

 五重塔は元々塔婆で心柱が地面に立つ形成であったものが、時代が新しくなるにつれて天井から釣ったような形式になったのだという。

 軒における反りの意味。白鳳の美を残す法隆寺東院の伽藍の特徴。夢殿は柱を少しづつ内側に倒すことで八角形でありながら安定感を持っていること。

 

 薬師寺も明治までは専属の棟梁がいたとういうが、その跡を継ぐ者がおらず、伽藍の再建にあたって西岡棟梁に白羽の矢が立った。

 塔を中心にするのではなく仏像が中心になっている薬師寺の特徴。本尊の銅に見合う鋳造技術は現代では失われていること法隆寺と違い各階に裳階がある塔の構造。

 法隆寺は朝鮮系の技術がみえるが薬師寺は中国の西安から直接入った様式だそうで、法隆寺と薬師寺は50年くらいの差しかないのにずいぶんちがうという。

 

 宮大工の生活、棟梁としての矜持を語っている章も印象的だ。現物を研究して熟知している西岡氏は学者たちと言い争いになったことも何度もあるらしい。技術を勉強することは難しくないが、木を活かして堂や塔を作ることは簡単には学べないという。

 育てようとしても継続して仕事がないことが宮大工の育成の障害になっていることなどにも言及している。

 

 最後に、本書をまとめた塩野米松氏の解説があり、取材時のエピソードなどが書かれている。貴重な記録である。

 

文庫、284ページ、小学館、2003/11/1

木に学べ―法隆寺・薬師寺の美 (小学館文庫)

木に学べ―法隆寺・薬師寺の美 (小学館文庫)

  • 作者: 西岡常一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/11/01
  • メディア: 文庫
  • 購入: 11人 クリック: 76回