著:NHKスペシャル取材班
NHKスペシャル取材班が番組制作用に取材した内容を元にまとめられたストレスについての本。
特徴としては、大きく2つある。まず第1に、キラーストレスという表現で、現代人のストレスがフィジカル(身体)に及ぼす影響について迫っていることである。これまでも、ストレスが肉体的にもよくない影響を及ぼすことは直感的に理解されよく言われてきたが、本書ではストレスとフィジカルの関係についてより一歩進んだ解説を試みている。第2に、内外の研究施設を飛び回って何人もの専門家に直接取材して最新の研究成果を紹介していることである。この辺は予算面ひとつとっても個人ではなかなか難しいことで、NHKならではの有利さが活かされている。
ストレス反応を引き起こすメカニズムと偏桃体。ストレスホルモンのコルチゾール。健常者と比べて萎縮し隙間ができているうつ病患者の脳の写真。ストレスを悪化させる「マインド・ワンダリング」。NPY(神経ペプチドY)と呼ばれる神経伝達物質。
ストレスががんを悪化させたり、脳梗塞や心疾患の原因になるケースもある。ストレスホルモンがATF3遺伝子に作用して免疫細胞ががんを攻撃する動きを止めてしまうことを示したオハイオ州立大学のソンウィン・ハイ博士の研究成果や、体内に入った細菌がストレスのかかった状態では免疫細胞の攻撃から逃れて増殖する可能性を示すニューヨーク州立大学ビンガムトン校デイビット・デイビス教授の研究成果、ストレスの多い人ほど風邪にかかりやすい傾向があることを示すカーネギーメロン大学シェルダン・コーヘン教授の調査結果などが紹介されている。
それでは、どうすればいいのか。本書の後半では、自分のストレスを観察して適切な対策をとる「コーピング」という技法についてページを割いて説明している。マインドフルネスに基づく対処法についても述べられている。ちなみに、アメリカ心理学会は一般人向けに以下の5つのストレス対策を推奨しているという。
1.ストレスの原因を避ける
2.笑い
3.友人や家族のサポートを得る
4.運動
5.瞑想
大人に目を向けるだけでは十分ではない。幼少期にいじめを受けた経験のある人はうつ病にかかったり自殺を考える人がそうでない人の2倍多いそうで、つまり、子供のころから気を配っておくことが重要であるという。コーピングを完全に一人だけで実施して続けるのは難しそうな気がするが、参考にはなる。
また、なんだかんだと対策としては当たり前によく言われているような運動などの生活習慣や食習慣などにつながる共通の要素が多いので、一般的に健康に良いとされることをメンタル面にも広げて考えてみる良い機会になった。
新書、240ページ、NHK出版、2016/11/8