著:ジャネット クラークソン、訳:富永 佐知子
「西洋では、両手つきの小さなデミタスカップ入りブイヨン以外、スープは『飲む』ものではなく、スプーンで『食べる』ものだ。一方、東洋では、スープの具を箸で食べたあと、器に直接口をつけて汁を飲むのが正しい作法である」。
タイトル通りの本で、軽めの読み物に仕上がっている。汁物料理は世界のどこにもあるという。使われる食材も様々。ブロス、ポタージュ、ミネストレーネ、コンソメ、クーリ(果物や野菜のピューレ)、バーグー(肉と野菜のシチュー)、ハギス(子羊や子牛の内臓の煮込み)、スキンク(牛すね肉のスープ)、アヴゴレモノ(卵でとろみをつけたチキンのブロス)、ボルシチ、味噌汁、ふかひれスープ、他。日本のお吸い物や味噌汁も、スープの一種として紹介されている。
鍋が一般的になる前は、動物の皮や胃袋が使われていた。中世のヨーロッパでは貧しい農民は水っぽい粗食を食べる一方で、裕福な人たちはいろいろなレシピを残している。
十字軍はいろいろな香辛料をもたらした。17世紀になると調理技法が大いに発展する。19世紀には元々ロシア式で現在一般的になっている一品ずつ料理を運ぶ方法が主流となり、スープは今と同じ位置を占めるようになった。スープは癒しや薬になると考えられていた時期もある。
「レストラン」という言葉は元々スープを意味していた。貧者への施しにもスープが振舞われるようになる。18世紀には、長期保存のために煮詰めて固型するレシピが一般化する。運搬に便利で、航海や戦場の携行食としても使われた。ナポレオン時代に瓶詰めが登場し、1813年に世界初の缶詰工場がイギリスに誕生する。
スープは豆類と相性がよく、世界中にスープ状の豆料理がある。キャベツやオニオンも主要な食材だ。トマトはアメリカ大陸からもたらされ、今ではなくてはならないスープの主役となっている。とうもろこしも新大陸からの贈り物だ。
基本的に西洋の話がほとんどだが、それ以外の地域についてもいくらか記載がある。ユリシーズ・グラント将軍一行が1879年に長崎を訪問したときのメンバーの一人が残した記録はちょっと苦笑してしまった。ヨーロッパではスープが朝食に出ることは無いが、東洋では違うという。
スープのこぼれ話も面白い。イギリスでウミガメのスープが大流行した時代、毒を混ぜるのに適しているので暗殺に使われたこと、などが載っている。写真や絵が多く掲載されている。レシピの紹介欄もある。
単行本、181ページ、原書房、2014/7/24
スープの歴史 (「食」の図書館) [ ジャネット・クラークソン ]
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