著:ヘザー・アーント アンダーソン、訳:服部 千佳子
インド料理、タイ料理、メキシコ料理、四川料理、韓国料理、他。今や、トウガラシ無しでは考えられない料理は世界中にある。
しかし、トウガラシが発見されたのはコロンブスがアメリカに到達して以降のこと。しかも、当初は観賞用や医療用としての注目が主だった。つまり、トウガラシがアメリカ大陸以外に根を下ろしたのは、人類の歴史から考えればごく最近のことなのである。
トウガラシはナス科の植物。世界で400種類くらいの栽培品種がある。辛さの源はカプサイシンという二次的代謝物質で、動物に食べられるのを避けるための工夫とみられる。ただし、鳥はカプサイシンを感じないので、トウガラシをついばんで種を遠くまで運ぶ。
辛さを測定する方法としてはスコヴィル値というものがあり、現代ではクロマトグラフィを使って計測される。
南北アメリカ大陸では古くから栽培されており、現代のトウガラシは7000~8000年前の5つの品種から派生しているという。
ただ、南北アメリカ大陸で広く一般的だったかというとそうとはいえないようだ。また、かつては通貨の代わりに利用されていたこともあったようだ。
1493年に新世界へ2度目の上陸を果たしたコロンブスは、トウガラシの存在に注目した。当初は医薬品としての期待が大きかった。
伝搬のスピードと定着に要する期間は地域によってかなり異なるようで、その辺の事情は、世界の各国・各地域別に書かれている。日本も登場し、シシトウに言及されている。
トウガラシの好みも違い、ヨーロッパではチリパウダーのようなものが使われるが、中東ではオリーブオイルと混ぜたフルーティなペースト状のものが好まれる。トルコのアレッポペッパーは適度に辛くてレーズンの味がする。
アジアでのトウガラシの伝搬にはポルトガル船が大きな役割を果たした。トウガラシは熱帯や亜熱帯ですんなり育つ植物で、栽培も簡単で、コショウより安価なので、あっという間に広がる。
今や、インド料理が、かつてはトウガラシと無縁な料理だったというのは今では想像するのが難しい。タイ料理も同様である。
薬や武器としてもトウガラシは使われてきた。日本の忍者が使っていた目つぶしにはトウガラシが使われていたという。トウガラシスプレーは現代でも防犯や催涙ガス弾として使われている。一方、トウガラシの辛さは、激辛に魅了された人々も生んできた。
トウガラシの歴史についての本。食の図書館シリーズの一冊である。著者はアメリカ人で、フードライター。堅苦しくなく、軽く読める。巻末には昔のレシピ集が載っている。
単行本、184ページ、原書房、2017/8/22
トウガラシの歴史 (「食」の図書館) [ ヘザー・アーント・アンダーソン ]
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