密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

日欧EPA。中国とはちがい、民主主義で法治国家で先進国の市場でチャンスをつかめ。『ヨーロッパで勝つ! ビジネス成功術』

著:塚谷 泰生

 

「2017年12月には日欧EPA(経済連携協定)交渉が妥結し、2019年からの発効を見込んでいて、最終的には多くの分野で関税がゼロまたはゼロに近くなり、貿易の障壁は無くなります。関税によって競争力を削がれることなく、日本国内で販売するのと同じ感覚でヨーロッパに製品や商品を輸出できるということです」。

 

 「こうした日本の『ビジネス文化』が通じないことにビジネスマンが気づかないで、日本式のビジネスを行っています。そのため、ヨーロッパ諸国はもとより、機を見て敏な中国、韓国、アジア諸国も、日本製品より著しく劣る製品をうまく売り込んでいるのです」。

 

 長年、ヨーロッパ各国でビジネスをしてきた日本人が、日本企業や日本人がヨーロッパのビジネスで成功するコツや注意点をまとめた本。著者自身、料理店を経営したり、多くの日本企業のヨーロッパへの製品輸出を手伝ったりした経験が豊富なので、生々しい例がいくつも出ており、興味を持って読むことができる。

 

 ヨーロッパは小さい国が集まっており、ゲルマン系・ラテン系・スラブ系・フン族系で気質が違う。ただ、全部で5億人の巨大市場である。中国のようなパクリとか共産党一党支配による弊害はなく、民主主義の浸透している地域であって、日本人にとっては新興国よりもずっと安心してビジネスができる。

 

 繰り返し書かれているのは、「ヨーロッパでは品質の悪い製品でも売り方によっては大量に売れる」ということ。そのため、特に機械系に関しては、あちこちで安物買いの銭失いが発生している一方で、中国企業や地元企業が市場を席捲しているようだ。では、ヨーロッパの人たちが品質をどうでもいいと思っているかというとそうではないらしく、そんなもんだと思っているようだ。

 ところが、日本企業の感覚は、機械がちゃんと動くのは当たり前のことなので、「機械が本当に壊れないで長持ちし、スペック通りの生産数量ができるのか」というヨーロッパの企業ユーザが一番知りたい部分に対するアピールができていない。それどころか、念押しのつもりのネガティブな情報を強調して相手にインプットしようとする。結果として、日本製品は高いだけで、特徴がよくわからないと思われてしまう。

 

 「日本の常識」と海外の常識は違うので簡単に誤解が発生するということをしっかり念頭に置き、説明、確認、説明、確認を、何度も何度も何度も、繰り返すことが大切。ヨーロッパの会議室はボクシング場のようなもので、意見を言わない人は評価の対象にもならない。でしゃばっていると思われるくらいでちょうどいい。ヨーロッパ人には、日本人の顔は誰でも一緒で表情もわかりづらいように見えているので、おおげさにするのでちょうどいい。

 また、判断を求められる場面で、日本式の「後で回答します」は嫌われる。商談の場には決定権を持った人物を出し、即断即決、もしくはその場で本社に確認して即答できるようにすること。

 

 食事に関しては、ヨーロッパはソースで食べさせる文化であり、生食が発達していないこともあって、「鮮度が良い=おいしい」という感覚は無い。そして、分量を求め、とにかく大量に食べる。その一方、食品衛生には厳しく、食品添加物・農薬・肥料には日本人以上に敏感で、オーガニックのスーパーがたくさんあり、自然食品や天然のものを好むので、そういった分野にはもっとチャンスがあるかもしれない。

 

 ヨーロッパは労働者の保護や中小企業保護の法律がたくさんあるので、気をつける。また、法律はよくかわるし、マーケットの動きや消費者のし好の変化も含め常に最新の情報を入手するように注意する。個人主義が浸透しているので、従業員の言い訳には耳を傾け、よいコミュニケーションをはかってゆくことが大切。

 

 ヨーロッパで売れそうな日本製品はたくさんあるが、展示会ではヨーロッパでは売れそうにないものが並んでいたりする。なので、ヨーロッパに進出する場合は、事前にマーケティング調査をきちんと行うこと。

 

 ヨーロッパでは「約束」は「努力目標」のようなもので、互いに人間なのだから約束は守られないこともあるという感覚がある。よって、契約書では、約束が守れなかった場合にどうするかという条項を重視する。ペナルティ条項に拒否反応を示す日本企業が多いが、それは文化の違いなのだと受け入れるべき。また、ヨーロッパでの機械受注では、支払いは、前払金・出荷時支払金・試運転後のリテンション金の3回に分けて行われるのが普通であり、違約金は最後のリテンション金額の範囲で調整するのが通常なので、最初から10%高めに契約するなどの方策をとってもいいという。

 

 著者の失敗談や、日本企業の失敗例を挙げながら、かなり具体的に書かれており、予想よりとてもいい本だった。

 

新書、267ページ、筑摩書房、2018/5/9

 

ヨーロッパで勝つ! ビジネス成功術 (ちくま新書)

ヨーロッパで勝つ! ビジネス成功術 (ちくま新書)

  • 作者: 塚谷泰生
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/05/09
  • メディア: 新書