密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

補給戦―何が勝敗を決定するのか

著:マーチン・ファン クレフェルト、翻訳:佐藤 佐三郎

 

 興味深い一冊だった。類書が少ないだけに、関心のある方には一読を勧める。ただ、そう難解な本ではないものの、理解のためには本書で述べられている戦いに関する基礎的な知識は多少は必要だ。

 特に印象的だったのは、ナチスドイツの東部戦線での補給に関する分析と、砂漠の狐と呼ばれたロンメルの戦術に関する補給面からの考察である。一般的に、これらの戦いはヒトラーの介入が作戦遂行を困難にした大きな要因と指摘されていて私もそう信じていたのだけれど、著者の分析データからは少し異なる見解が浮かび上がってくるのがちょっと驚きだった。

 我々はどうしても、派手で独創的な戦略や作戦や戦いそのものに目が行きやすい。しかし、結局、優れた戦略を成功させるには、それを支えるための地道な調査や兵站や補給物資や補給線の確保維持という、一見面白くもなく基本的だが実は非常な困難さを伴う作業とそれを担う部隊抜きでは難しいというのが実感としてわかってくる。

 その一方で、どれだけ完璧な準備をもってしてもまったくその通りうまく成功する作戦というのは少なく、大規模な準備が可能で物量的にも恵まれたノルマンディー上陸作戦ですら、結局は予定通りには進まなかったと指摘されている。だからこそ、想定外が連続する実戦の困難を乗り越えて作戦を成功に導くには、卓越した能力と臨機応変さと決断力を持ったリーダシップの存在が必要であることも同時に明らかにされてゆく。このような点はビジネスの世界にも通じるものがある。

 一方、本書はアフリカ戦線に関する部分を除くと、平坦地が中心のヨーロッパにおける陸軍の大軍同士の戦いだけを対象としている。最新のものでさえ気がつけば既に60年以上昔のものだ。

 したがって、同じようなことが同じ形で今後ヨーロッパで再度起きるとは考えにくい。ジャングル、山間部、諸島、ゲリラ戦、ハイテク兵器でカバーした機動戦、といった戦いでも結局全て補給の問題はつきまとうので、それらに関しても同様の視点から分析したものがあるのなら読んでみたいと思った。

 

文庫、422ページ、中央公論新社、2006/5/1

 

補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)

補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)

  • 作者: マーチン・ファンクレフェルト,Martin van Creveld,佐藤佐三郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/05/01
  • メディア: 文庫
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