著:マテュー ギデール 、翻訳:太田 佐絵子
アラブ世界は広く複雑な上に様々な問題を抱えている。本書は、アラブ世界の状況を歴史的な経緯も適時紐解きながら、カラー図解を多く用いて説明したものである。
イスラム教は本質的に政治と不可分であり、政教分離はなかなか難しい。ただ、イスラム主義とイスラム教は深く結びついているものの同じではなく、イスラム主義は政治的な思想や理念の体系である。特に近年のイスラム主義は、民衆的、政治的、ジハード的の3つの潮流がある。また、アラブには非アラブ人の共同体もあり、ベルベル人、クルド人、アルメニア人がその代表になる。さらに、少数派ではあるがキリスト教徒もいる。
難民問題も複雑で、古くからのパレスチナ難民と、最近のシリア・イラクの難民がいる。アラブの春に伴う紛争も、リビア、シリア、イエメンから多くの難民を出した。レバノン人は国外に国内の2倍以上いる。一方、サウジアラビアなどは同じアラブ圏から高度人材を積極的に受け入れている。
アラブ世界は紛争が絶えない。スンナ派とシーア派の対立に加え、植民地時代に端を発する未確定の国境紛争、民族間の争い。クルド人、スーダンと南スーダン。アラブ・イスラエル戦争、湾岸戦争。アルカイダのテロ。ISIS。
アラブ世界には7つの君主国がある。王家や古い家系が権力を握っている。部族、氏族、親族に基づく伝統主義や保守主義があり、女性の地位は低い。共和制の国であっても名ばかりになっているケースは珍しくない。
アラブ世界は多くの人口を抱えるが、砂漠や乾燥地帯が多く、世界の水資源の1%以下しかない。水は緊張を作り出す原因になっている。一方、湾岸5か国には世界の原油埋蔵量の半分および天然ガスの4分の1が存在している。
フランス人が書いていることと関係するだろうが、フランスがこの地域で果たした役割についてはポジティブな書きぶりになっている。また、イランはアラブ諸国として含まれていない。カラー図解が多いため、複雑なアラブ世界を理解するうえで、多少なりとも役に立つ本にはなっている。
単行本、161ページ、原書房、2016/11/28
地図で見るアラブ世界ハンドブック [ マテュー・ギデール ]
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