密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

戦艦大和―生還者たちの証言から

著:栗原 俊雄

 

 「生き残ってしまった」という後ろめたさ。各方面から成績上位者が選抜された憧れの船である「俺は、あの大和に乗っていたんだ」という誇り。「作戦は間違っていたが、大和はあそこで沈んでよかった」という思い。戦艦大和の生還者たちの多くに共通する意見だという。戦艦大和についての本。生還者たちやその家族の生の声を集めているところに特徴がある。新聞の連載が元になっているそうだ。

 竣工時のデータは、全長263m、最大幅38.9m、基準排水量65,000トン。主砲は45口径46cm三連装が3基9門。主砲の威力は口径の3乗に比例するため、アメリカの「ワシントン型」(40.6cm砲)の1.4倍以上。主砲は1基2779トンで、駆逐艦1隻に相当。建造費は当時の一般会計歳出の6%にあたる1億3780万円。実に巨大な船だったことがわかる。乗員は最終的に3332人。

 前半が竣工から沈没までの経緯。後半がその後の乗組員と家族たちの話しである。「海軍は長い距離を歩かなくていい」「海軍には飢えがない」という海軍を希望した人たち。沖縄水上特攻の作戦が実行された経緯も丹念に追っている。また、片道分の燃料といわれたが実はそうでなかったということも明らかにされている。ただし、そのために、南方からの資源輸入が途絶えて最後の物資輸送の生命線となった大陸からの輸送船団護衛部隊用であった燃料7000トンのうち4000トンが削られて回されたのだという。手足が飛び散る中での奮戦や、次の戦闘に備えて戦友たちの血が付いた手で急いで握り飯を食べる様子。生死を分けた爆発と沈没。海に投げ出された人々を狙う米軍機の機銃掃射。わずかに残った駆逐艦による限られた救助活動の様子も生々しい。そして、遺族や生還者の複雑な思い。

 著者は最後に、大和という戦艦について、世界最大・最強の戦艦だったという側面に注目することも可能だし、守るべきもののために散って行った戦士たちの象徴とすることもできるし、民族の誇りとして見ることも、軍事力に国力を傾けて勝算のない戦争に突き進んだ時代の象徴としてとらえることも可能な、見る者の歴史観を映す鏡であると述べている。

 

新書、221ページ、岩波書店 、2007/8/21

戦艦大和―生還者たちの証言から (岩波新書)

戦艦大和―生還者たちの証言から (岩波新書)

  • 作者: 栗原俊雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2007/08/21
  • メディア: 新書