著:佐藤 和正
太平洋戦争で生き残った34人の艦長を、ひとりひとり訪ねて丁寧に取材した結果を一冊にまとめてある。雑誌の連載が元に追加補筆してあり、掲載順は海軍兵学校の卒業期に準じているそうだ。
強く胸を打たれた。多くの戦記を読んできたが、この本はその中でも優れた一冊だと思う。まず、証言している人数が多い。そして、全員が現場を経験しており、しかも艦長経験者だ。
艦種も、戦艦、空母、巡洋艦、駆逐艦、潜水艦、海防艦と多岐に及び、戦争初期から終戦時の混乱までの出来事か鮮明に語られている。また、著者の執筆姿勢も大変丁寧で、適時証言と米軍の記録を照らし合わせたり従来説との違いを指摘している。
作戦や指揮の混乱。日本側でも昭和19年以降多くの艦に付けられるようになったレーダーの貢献。対空戦を意識して増やされた機銃の威力。輸送船団の護衛や航行方法。敵の攻撃からの回避方法。敵艦への攻撃。哨戒や対潜の問題点。終盤の錬度の低下。それぞれの証言は現場を統率する立場だっただけあって具体的で詳しい。
華々しい戦果を挙げた状況も多く記載されている。しかし、なんといっても戦況全般の行方を反映して厳しい戦いを強いられた大戦中期以降の現場の過酷な状況が印象的だ。連日襲来する米軍機の波状攻撃。日本の商船や軍艦を虎視眈々と狙う米海軍の潜水艦の攻撃網。レーダー射撃による精度の高い狙い撃ち。突然襲ってくる魚雷。あちこちに撒かれた磁気機雷。
質・量共に圧倒的に優勢に立った米軍の脅威の中で、苦悩し、知恵を絞り、隙を突かれ、必死で回避し、反撃し、損害を受け、一瞬の違いが命運を分ける。劣勢の中で輸送任務や護衛に従事した海防艦や駆逐艦の奮戦には、特に感慨深いものがあった。太平洋戦争の海の戦いの実情を綴った貴重な記録である。
文庫、517ページ、光人社、2010/1/1