密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

文春砲 スクープはいかにして生まれるのか?

著: 週刊文春編集部

 

 「スクープは一朝一夕に打てるものではありません。いつ芽が出るかがわからない種を先に先にと撒くようにしているからこそ、収穫できるのです」

週刊文春はどうしてスクープを取れるのかと、これまで何度聞かれたかわかりません。そのたびに私はこう答えています。『狙っているからです』と」

(新谷 学『週刊文春』編集長)

 
 ベッキー禁断愛。甘利明大臣金銭授受告発。元少年A直撃取材。ショーンK経歴詐称。舛添知事公費流用。スクープを連発し、「文春砲」という言葉すら生まれるようになった『週刊文春』において、どのような取材が行われてきたのか、デスクや編集長は何をどう考え、どのような方針で臨んでいるのか、といったことを関係者の証言で紹介した本。

 編集長によると、スクープには以下の4つの種類があると説明されている。記事としての理想はこのうち(1)で、ボツになるのは(4)。売れることは大切だがそれだけだと文春らしさが損なわれてしまうので、(2)と(3)の選択は難しいのだという。


(1)やる意義があり売れるスクープ
(2)やる意義はなくても売れるスクープ
(3)やる意義はあっても売れないスクープ
(4)やる意義がなく売れないスクープ

 また、週刊文春では、新聞広告や中吊り広告において、右端の見出しとなる記事を「右トップ」と呼び、左端の見出しとなる記事を「左トップ」と呼んでいるという。右トップは政治や経済や事件が中心で、左トップは芸能関連や医療・健康関連記事が基本。右トップはその号の顔になる記事なので、先の4つのうちの(1)を据えることが多く、ここが強い号は売れるという。

 世間をにぎわせたそれぞれのスクープがどのように取材されて記事になったのかということも、具体的に、ドキュメンタリー風に書かれている。ベッキー事件と甘利大臣のところは生々しい。2004年のNHKのプロデューサーの横領事件において、NHKがとった行動の裏側についても述べられている。「ユニクロ潜入1年」のように時間をかけた企画も当たり前にある。女性スキャンダルにおいて橋下徹が反論できなかった点に象徴されるように、根気強く証拠を集め、ぐうの根も出ないように、ファクトで武装することで権力や圧力と対峙する。相手が右だろうと左だろうと、書くべきことは書く。裁きではなく、エンターテイメントを目指す。罪の追求ではなく、人間への興味を求める。こうして、週刊文春がスクープを連発することで、持ち込まれるネタも増えてくるという。デジタル時代への対応についても言及されている。

 雑誌が売れない時代に、企画ものではなく、あくまでもスクープにこだわり続け、ファクト重視の姿勢によって「週刊文春」の看板への信頼を高めて好調を維持してきたことが、ひとつの流れとしてはっきり理解できる。自画自賛的な感じがしないでもない記述もあるが、週刊文春編集部の編集長以下のメンバーが分担しあってそれぞれの経験と目線で語っており、なかなか面白い。

 

目次

第1章 スクープ記事はどのようにつくられるのか
第2章 スキャンダルの構造
第3章 政治とスクープ
第4章 メディアの可能性―未来への挑戦

 

新書、232ページ、KADOKAWA 、2017/3/20

文春砲 スクープはいかにして生まれるのか? (角川新書)

文春砲 スクープはいかにして生まれるのか? (角川新書)

  • 作者: 週刊文春編集部
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/03/20
  • メディア: 新書