密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

特攻隊員の現実 (講談社現代新書) (日本語) 新書

著:一ノ瀬 俊也

 

神風特攻隊員がどのような心情であったか、国民や軍の関係者は神風特攻隊についてどのように思っていたのかを、著者の推測を交えながら書かれた本。タイトルは「特攻隊員の現実」となっているが、人間魚雷の回天、小型ボートの震洋、大和の沖縄戦での水上特攻などは除かれており、B29への体当り攻撃も無く、「神風特攻隊」のみである。

 

本書は、大きくは2つのパートに分かれている。前半では特攻隊員の遺書や、特攻機に同乗するマスコットを作って贈ったりした女性たちなどの証言から、特攻隊員の意識がどのようなものであったかを類推する。この部分では、著者は、神風特攻隊員たちの意識は作戦がはじめられた当初とは違い、終戦が近づいた頃には諦観が強いとしている。

 

後半部分では、国民の意識がどうであったかについて、当時の人々の記録や日記などからピックアップして類推をしている。新兵器待望論、軍が国民の総力戦への支持を取り付けて飛行機を増産してもらうために神風特攻隊をさかんに宣伝したことなども紹介している。

 

ネットオークションで神風特攻隊員の遺書が時々売りに出されているそうで、それらの中からいくつか落札できたことに触れているところもある。

 

個人的に、第二次世界大戦の本はたくさん読んできたし、神風特攻隊や、それ以外の特攻を扱った本もたくさん読んできた。ただ、この本は、読んでいて違和感があった。特攻隊員はたくさんいたし、当時の日本国民は約1億人。個人の心情や意見は様々である。当然であるが、ある人の日記のある日の記述にこう書かれている箇所があったということだけで、その時代の多くの関係者がそう考えていたと結論づけることはできない。にもかかわらず、著者は、もしかしたら多くの人がそうであったかもしれないという考えと、一定数そういう人もいたかもしれないという意見、おそらくこれはそんなに多くはなかったかもしれないという意見を、すべてごちゃごちゃにして紹介しているので、非常に違和感が強かった。はっきり書くなら、たくさんの資料から自説に都合のよいものを拾い出して継ぎ合わせているだけに読める。

 

また、「特攻は米兵の命を奪うことで和平につなげるという一貫した軍の方針に基づき継続され、多くの隊員がそれを信じで死んでいった」という特攻に関する主張に至っては、明確に間違いである。この著者はイスラムのテロリストと神風特攻隊の違いがわかっていない。本当に著者の言う通りであれば、米兵が多く乗っているかどうか殺戮しやすいかを攻撃の第一の基準にすればよく、空母や戦艦や駆逐艦などの守りの堅い難しい標的ではなく病院船などを狙えばよいが、そんな作戦は行われていない。そもそも著者の主張の通りであれば選りすぐられた3000人の乗員からなる戦艦大和の水上特攻など、非効率この上なく、まったく説明がつかない。

 

新書、256ページ、講談社、2020/1/15

特攻隊員の現実 (講談社現代新書)

特攻隊員の現実 (講談社現代新書)