密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか

著:日本再建イニシアティブ

 

 民主党が政権を担った3年3ヶ月を検証した、シンクタンクによる詳細なレポートである。

 菅直人、野田佳彦、岡田克也、海江田万里、前原誠司、仙谷由人、藤井祐久、馬渕澄夫、安住淳、北澤俊美、(以上敬称略)他、2013年2月11日〜7月1日に2時間x30回実施されたヒアリングの協力者には、民主党政権時代の重要人物の名前がずらりと並ぶ。

 さらに、2013年4月25日〜8月9日にかけて実施された民主党衆議院議員56名のアンケート結果も反映されている。このアンケート結果は本文で適時引用され、巻末にも一部紹介されているが、記載されたURLの先のWEBでメールアドレス等の個人情報を入れると返信メールからたどって全部読めるようになっており、「2012年7月の党の分裂は避けられたと思いますか?」「民主党政権全般を通して政治主導はうまくいきましたか?」「マニュフェストの実現性について、2009年衆議院当時はどうお考えでしたか?」といった質問から、評価が真っぷたつに分かれているものも含め議員たちがどのように考えているかという傾向が読みとれて興味深い。

 中立的で客観的な立場から書かれており、主要なテーマ別に事実関係を的確に整理しながら、様々な証言、データ、先に述べたヒアリング調査とアンケート結果などを織り交ぜて記述されている。

 失敗したマニュフェスト、十分実現できなかった政治主導、深刻な財源問題、バラマキの象徴となった子供手当て(元々の趣旨は少し違ったようだ)。

 特に鳩山政権時代における外交・安保保障政策の混迷。尖閣諸島をめぐる対応、東日本大震災、意思決定のしくみつくりが出来ず属人的な色彩の強い意思決定システムになってしまった政権と党運営、選挙の大勝と惨敗。

 

 混迷を極めたあの3年3ヶ月を振り返るにあたって、なるべく抑制した表現を選んで書いたとしても厳しい評価が並んでしまうのは仕方の無いところだろう。

 ただ、本書では、高校無償化後に経済的理由で中退する生徒が全国で半数以下になったことや、中国の台頭を考慮した防衛大綱の見直し、ASEANとの連携による海洋安全保障のイニシャチブ等、部分的に評価してもよい点や、いろんな意味で大きな影響力を持っていた小沢一郎に本当に帰すべき問題と実はそうとはいいきれないものをきちんと切り分けて指摘しており、民主党はダメだったという全体的な評価とイメージに頼ってすべてを安易に丸めて批判してはいない。

 混迷と失敗の原因についても、元々の構想とその後の経緯が丁寧に説明されており、全体的には「民主党政権はどこで間違ったのか。それは、誰の、どういう責任によるものなのか。そこから何を教訓として導き出すべきか。この報告書は、そのような問題関心に正面から応えることを目的としている」という、本書の最初の部分に掲げられた目標におおむね沿った内容になっている。

 

新書、304ページ、中央公論新社、2013/9/21

民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか (中公新書)

民主党政権 失敗の検証 - 日本政治は何を活かすか (中公新書)

  • 作者: 日本再建イニシアティブ
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2013/09/21
  • メディア: 新書