密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

太平洋戦争屈指の激戦。アメリカ軍側から見た記録。「ペリリュー島戦記」

著:ジェームス・H. ハラス(James H. Hallas), 訳:猿渡 青児

 

「人生の締めくくりの今、振り返ってみると、それなりに、貴重な経験でもあったんだ。でも惨めな経験でもあった。ただ、あまり誰にでもお勧めではないよ。生き残るのが難しいからね」(トム・ボイル元二等兵)



徹底的に綿密な取材を重ねて描かれた戦記である。主にアメリカ側の立場から書かれてあるが、日本側の状況も丁寧に調べて記述している。名もない兵士ひとりひとりの記録を集めてつなげ、まるで映画を見ているような気分になるくらい、写実的で生々しい。

猛烈な艦砲射撃、激しい空爆。ジャングルは禿山になる。半年かけて整備した堅牢な陣地に篭ってじっと耐える日本の守備隊。そして海兵隊の上陸。巧妙に隠蔽した陣地からの日本軍の反撃。混乱のビーチ。血に染まる海。

作戦、対立、誤算、勇気、憎しみ、怒り。多大な犠牲を払いながらも橋頭堡を確保し、圧倒的な物量でひとつひとつのトーチカや洞窟陣地を潰して進撃する海兵隊。島を4つのエリアに分けて地形を使用した縦深陣地に誘い込み十字砲火を浴びせながら、「死ぬまで戦う」日本兵。そして、ファイブ・シスターズと名づけられた険しい山々で繰り広げられる死闘。白兵戦。夜間の切り込み攻撃。包囲。アンガウル島での攻防戦。果てしない消耗戦が続く。

アムトラック、戦車、火炎放射器、工兵隊の仕掛けた爆薬、ナパーム弾、爆撃と機銃掃射、至近距離での手榴弾の投げ合い。後半に紹介されている、米軍が日本兵一人を倒すのに使った平均弾薬消費量のデータには驚かされる。

圧倒的な物量の優位を保って損害率が増え続ける中で攻め抜いた海兵隊はなかなか勇敢だ。しかし、勝てる見込みのない中で73日間も粘り強く戦いぬいた、中川州男大佐が率いた第14師団第2連隊を中心とする守備隊の頑張りも凄い。

560ページを超える大作。本当に詳しくこの島の死闘の全貌について解説している。決定版と呼ぶのにふさわしい内容の一冊である。

 

光人社、文庫、568ページ、2010/3/1