著:カズオ イシグロ(Kazuo Ishiguro)、訳:土屋 政雄
カズオ・イシグロの3作目の長編である。
素晴らしい作品だった。
英国の執事が主人公である。ソールズベリーの館。新しいアメリカ人の主人に仕える老いたスティーブンス。ミス・ケントンからの手紙。車で旅に出たスティーブンスは、長年仕えたかつての主人であるダーリントン卿の時代に想いをはせる。途中で立ち寄った地の人々との交流と過去の回想がクロスオーバーしながら、物語は淡々と進む。
登場人物たちの微妙な心の揺れをとらえた緻密な描写。2つの世界大戦と館での出来事。かつて執事であった父親。多くの使用人たち。出入りする人々。プロフェッショナリズム。ミス・ケイトンとのやりとり。作品を貫く品格。よく錬られた構成。美しい夕暮れ。
面白いとか、エキサイティングだとか、泣けるとか、そういうのではないかもしれない。しかし、読み終えて、静かだが、確かで、深い余韻に包まれた。1989年にブッカー賞を受賞したという。それだけのことはある。見事な傑作である。
早川書房、2001/5/1、文庫、365ページ