著:リチャード・F. ニューカム、訳:田中 至
「3月18日、硫黄島を確保した。27日間の地獄ののちに」。
米国の記者が取材を重ねて書いた本の日本語訳である。硫黄島の戦いに関する本は、日本でもたくさん出版されている。しかし、それらの多くは攻撃側である米軍側についてはあまり詳しくないものが多い。よって、米国で出版されたものを和訳した本書は一読の価値がある。
「日本軍はすべての丘、高地、岩かげで抵抗した。地表のあらゆる盛り上がりの裏には、かならず塹壕が掘られ、戦車豪が築かれ、迫撃砲と機銃がたくみに配置されて、十字砲火を形成するように工夫されていた」。
「栗林将軍は断末魔の防御をドイツの元帥のように遂行しており、海兵隊は1メートル進むごとに、栗林の強いる甚大な損害をこうむっている」。
日本側の関係者ついても詳しく取材してあり、日本軍守備隊に関する記述はかなり多い。栗林中将の書いた手紙も多く引用されている。
交戦場面については、米国側からの記述が中心だが、戦場の状況というものは攻撃を仕掛ける側から見る方がわかりやすい面があり、これはこれで受け入れたい。
「海兵隊というのは驚くべき人間の集団だ。彼らは見ただけでぞっとする傷を負って病院にやってくるが、言う事は誰も同じように"早く前線に戻りたい"だ」。
全体的に、通信社の記者らしい客観的で詳細な描写力で、両軍の様子が克明に浮かび上がってくる。非常に質の高いドキュメンタリーである。また、それだけに重い。
「硫黄島の戦いにおけるアメリカ軍の損害が、国民の間にこれまでに見られなかった反響を呼び起こしたことは確かである。これまで、最大、しかも最重要のノルマンディー上陸作戦でさえも、このような感情は引き起こさなかった。....(中略)...硫黄島の苦闘は人びとに衝撃を与えた」。
読み終えて、日本人のひとりとして、はっきりいえることがひとつだけある。硫黄島の日本軍守備隊は本当によく戦った、と。
文庫、354ページ、光人社、2006/10/1