著:森 一弥、イラスト:佐倉 イサミ
ブロックチェーンについてやさしく説明した本。薄い本で、イラストと図解中心となっており、多色刷りで、見やすく、わかりやすい。よく考えて構成されており、初歩の初歩から、ブロックチェーンの概要について理解できるようになっている。
1.ビットコインを中心にした暗号資産の基本
ビットコインのようなブロックチェーンを利用した暗号資産では、取引のデータの塊をブロックとして記録する。その際に前の取引のブロックの情報も含めてハッシュという要約情報を含めて記録する。こうすることで、過去の取引データが改ざんされたら要約部分に不整合が生じるので不正を検知できるようになる。この台帳は世界中に分散してコピーが作られているので、そのうちの一部がコンピュータの障害などで使えなくなっても止まることはない。ブロックの情報はマイニングという作業によって合意形成がなされ、一番先にマイニングに成功したマイナーは報酬が得られる。信用を保証する主体は存在していない。
電子マネーは日本では資金決済法で前払式支払手段となっており、ポイントは現金では直接購入できないものとされている。いずれも、暗号資産とは異なる定義となっている。2020年5月の改正によって金融商品取引法でも暗号資産の取り扱いについて明記されるようになった。
ブロックチェーンでまず理解が難しいのはブロックチェーンの仕組みとマイニングであると思う。本書では、以下のような形で会話形式と図解で順序だてて平易な説明を行っている。
後半では、公開暗号方式などの技術的な説明についても章を作って図解している。
2.ブロックチェーンの応用
ブロックチェーンを利用すれば、巧みな仕組みでデータの改ざんを防ぎ、同じ台帳を広く分散させて動かせることで24時間止まらないシステムを実現できる。この特徴は暗号資産以外にも応用できる。本書では、KYC(Known Your Customer)、トレーサビリティ、IoTデータの管理、株主総会のシステムでの応用といった例を説明している。トークンの概念の説明もある。
スマートコントラクトも大きな特徴になる。契約内容をあらかじめブロックチェーン上にプログラムとして記述しておき、条件が満たされれば取引が自動実行される。ブロックチェーンの分散型の特徴を生かし、Dappと呼ばれる分散台帳の特徴を生かしたプログラムの開発も行われる。
一方で、ブロックチェーンに向かない分野についての説明もある。ブロックチェーンが向いているのは取引を履歴として記録していくシステムであって、マスターデータには向いていないとしている。
3.ブロックチェーンの課題を補完する技術
ブロックチェーンには課題もある。取引承認に時間が必要だったり、秘密鍵を盗まれた場合のセキュリティの問題などである。本書では、メインとなるブロックチェーンの外側にさらに細かい取引を引き受けるサブとなるチェーンを組み合わせるサイドチェーン、ウオレットの操作に複数の秘密鍵を必要とするマルチシグといった説明がある。
4.ステーブルコイン
FacebookのLibra構想が登場したとき、世界の中央銀行は一斉に懸念を表明した。本書はその構想についても触れながらステーブルコインについて解説する章を作っている。ドルにペッグしたTether、PAX、USDCなどが登場する。CBDC(中央銀行デジタル通貨)についても少しだが書かれている。その後、Facebookはバスケット方式ではなく個別の通貨に対応したLibra 2.0を提唱し、最近はそれをDiemという呼び名にしているが、本書は2020年9月に出版されておりそこまで触れてはいない。
5.全体として
もともとWebでの連載が元になっており、それを大幅加筆して本としてまとめてある。読みやすく、とっつきやすく、ブロックチェーン入門としてとても良い。
単行本、小学館、128ページ、2020/7/1