著:中島真志
ビットコインなどのデジタル通貨の昨今について、次の3つの視点から解説した本である。著者は日本銀行出身で決済についての本を何冊も書いており、慣れているのだろう、とても整理された書きぶりである。
第1部 リブラの野望
第1部のリブラについては、「Libra 1.0」の概要とインパクトの大きさ、多くの批判を受けて登場した「Libra 2.0」についてまとめてある。著者はLibra1.0が香港の「カレンジーボード制」、シンガポールの「バスケットボード制」、中央銀行の「シニョレッジモデル」を参考にしたとみており、それぞれと共通する部分を指摘しながらリブラの特徴とFacebookの狙いを解説している。「Libra 1.0」がとても出来の良い通貨であり、Facebookの27億人のユーザ基盤があり、モノやサービスの購入にすぐに使えるものであることを述べている。
一方、「Libra 2.0」は各国の通貨のSTOになってしまったが、これは当局への批判の対応ということだけでなく、為替変動を考えると複数の通貨のバスケット方式のまま100%の裏付け資産を維持し続けることは難しいという現実的な問題があった可能性を指摘している。
第2部 群雄割拠の仮想通貨ーアルトコインからデジタル通貨へ
第2部のLibra以外の民間の仮想通貨については、仮想通貨バブルや「コインチェック事件」など今までの仮想通貨の歩みを振り返りながら、ステーブルコインと民間の金融機関が導入を検討しているデジタル通貨についての解説をしている。ステーブルコインとして有名な「テザー」が実際にドル資産をどこまで持っているかについては疑惑が指摘されて久しいが、著者は海外の論文を引用しながら、テザーの悪用がかつての仮想通貨バブルの大きな要因になった可能性を解説している。
第3部 中央銀行の参戦ー大本命に「死角」はあるか
第3部は中央銀行デジタルコインである。リブラの登場と中国人民銀行が先んじたことで、世界の中央銀行が危機感を持ち、CBDCの検討が加速している。Delivery Versus Paymentでの活用や、リテールでの活用などCBDCがどのような分野でどのような形になりそうなのか、日本銀行をはじめ複数の検討案が示されている。
ある程度決済分野の基礎知識が必要な本ではあるが、理路整然と、かつ具体的にまとめられており、とても良かった。
発売日、2020/6/23、ソフトカバー、288ページ