密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

仮想通貨バブル (日経プレミアシリーズ)

編:日本経済新聞社

 

 2017年4月には改正資金決済法の施行があった。仮想通貨の市場における円との取引は4割を超えた。2017年の仮想通貨の値上がりと急落は激しかった。今年の1月にはCoincheckNEMの大量流出事件もあった。さらにICOのブームと被害も世界的に広がっている。

 

 資金決済法は決済のための法律で、実際に仮想通貨を使える店は増えてはいる。しかし、実際の仮想通貨の取引では投機目的がほとんどになっている。仮想通貨の値上がり局面では多くの長者を生んだ。一方、仮想通貨の値上がりによって安い手数料で買い物ができるというのも必ずしも事実ではなくなった。加えて、コインチェックの問題は、仮想通貨交換所のインフラの中には、必ずしも顧客資産の管理基盤として十分とは言えないものがあることを露呈させた。証拠金取引を利用していた人の中には、相場の急落局面で大きな損を被る人たちを生んだ。

 

 コインチェック事件で金融庁は慌てる。世界に先駆けて法律を作り取引所を認めた。コインチェックはあくまでもみなし業者ではあったが、みなし業者についても暫定的に業務の継続を認めていた。関東財務局がコインチェック行政処分を行い、金融庁はそれ以外の業者についても内部管理体制の確認を行う。業界内の対立によって、自主規制団体が存在しないという問題もある。

 仮想通貨は課税のルールが雑所得扱いとなっていて、最高税率が55%になる。損失の繰り越しと通算もできない。会計上の基準は一応示されているが、個別に決めなければならないこともある。

 

 ビットコインのようなタイプの仮想通貨は、マイニングという行為に支えられている。このマイニングは中国が7割を占めている。ビットコインの取引が急増してブロックサイズの問題が発生してソフトフォーク改善案が出された時には、中国のマイニング業者が強硬に反対してハードフォークが発生した。日本の業者の中には、北欧に拠点を作り、マイニングに参加する業者も出てきた。中国は規制が厳しく、中国の業者の中には日本に進出することを検討する事業家も相当数いる。

 

 ICOは短期間かつ低コストで資金を調達できる手段として注目を浴びてきたが、詐欺まがいの行為も横行している。仮想通貨にもマネーロンダリングの問題があるが、ICOはさらに問題が多く法整備が追い付いていない。

 

 商業銀行の中には仮想通貨に否定的な立場をとる経営者もいる。投資銀行ヘッジファンドの中には、仮想通貨を前向きに金融商品として組み込む業者もいる。

 ベネズエラは仮想通貨「ペトロ」を発行した。ロシアも法定デジタル通貨に前向きだ。中央銀行にとっては、ビットコインのような通貨は脅威である。ただ、仮想通貨に否定的な人々でも、ブロックチェーンの可能性については評価する人が多い。Delivery Versus Paymentのような用途はスマートコントラクトを使うことでブロックチェーンが向いているといわれる。MUFGは「MUFGコイン」の発行準備を進めている。みずほFGは「Jコイン」の発行を進めているが、ブロックチェーンは使わない。

 

 適時、関係者のインタビューも入っている。この業界で有名な人が多く、この辺はさすが日本経済新聞社である。全体的には、それほど知識がない人でも読めるのに、広範囲な内容を網羅してあって、予想より良い本だった。

 

新書、232ページ、日本経済新聞出版社、2018/3/16

 

仮想通貨バブル (日経プレミアシリーズ)

仮想通貨バブル (日経プレミアシリーズ)