著:増田 直紀
人や社会におけるつながりのネットワークについて科学的な理論に基づいて解説した本。2007年出版の本であるため、ところどころ古さを感じるが、基本的な考え方についてはむしろSNSがより生活に浸透した今の方がより説得力と重要性を持って理解できる感じがある。
数人の少数のコミュニティはクラスターと呼ぶ。人と人のコミュニケーションの最小単位は2人であるがコミュニティとしての機能は3人以上が基本。よってクラスターの最小単位も3人(3角形)である。
6次のつながりと様々なクラスターによって構成されたネットワークを「スモールネットワーク」という。ネットワークでは近道できるコミュニケーションのラインが1本あるだけで距離は近くなる。
各点が維持できるネットワークのラインの本数は時間的な制約などで限られる。インバウンドは相手が一方的に知ってくれるだけなのでまだいいが、自らひとつひとつの相手とつながりを維持しようとすると大変になる。
ビジネス機会を作るなら自分を中心に階層型でつながっている方がよい。それぞれの階層の下のコミュニティからの情報が階層を通じて入ってくるからだ。異なる種類の近道を作ったり、枝の行き先として信頼できる人を配置することも大切だ。
当然だが、人と人をつなぐ新しい枝は、類似した人、距離の近い人の間で生まれやすい。ただ、同質の人たちだけのネットワークだけに頼ると外の情報が入って来にくい。それを避けるためには、意識して複数のコミュニティに属するようにした方がいい。
外へつながる近道を持っている人とつながることも有効である。初対面の人が信頼に足りるか見極めつつ信じる。そして、異なるコミュニティに属する人々と連絡できるように風通しの良い状態で保っていること。
もっとも、そのためには金銭的・体力的・時間的・精神的なコストが伴うので、その点も考慮して自分に合った近道の数を選択して維持するように努める。
組織の維持においてもネットワークの考え方は重要だ。人と人の隔たりが大きすぎる組織はよくない。6次のつながりがうまく達成されているツリー型の構成がよい。
一方、クラスターは互助組織のようにも機能し、裏切り者が出にくくしたり、外部の脅威に対抗する効果を発揮する。村社会の効果である。誰かが辞めた時に他のメンバーでカバーしやすいというのもある。よって、組織の中に、三角形や四角形があちこちにうまく構成されているのがよい。
ネットワークの中にクラスターが生み出すコミュニティの連帯感をうまくミックスさせるようにする。一見効率的ではないかもしれないが、近い仕事をしている同士でワーキンググループを作る、交流会を設ける、互いに気軽に接することができるように情報交換の場を作るといったようなローカルなコミュニケーションの活性化は組織の利益につながる。
ネットワークは人の精神的な孤立を防ぐ効果もある。ネットワークから意識的に切り離されたときにいじめを受けたと感じたり、高齢者の場合はいつの間にかどのクラスターにも属さず孤独死につながってしまう場合がある。それを避けるには、人付き合いが苦手でも無理のない範囲で6次の隔たりと、どこかのクラスターへの所属を目指すのがよい。
スモールワールドネットワークとは異なるものとして、スケールフリーネットワークがある。世の中には多くのつながりを持つ人がいる一方で少ないつながりしか持たない人もいる。
数十から数百といったつながりを持つ人はハブになる。スケールフリーのネットワークにはこういったハブがある。世界の航空ネットワークにもハブ空港と呼ばれる多くの飛行場とつながっている巨大な空港が重要な役を果たしている。インターネットもスケールフリーネットワークの形で成長してきた。スケールフリーネットワークは感染症、格差社会、生態学、マーケティング、SNSの説明にも応用できる。
スケールフリーネットワークでは、ハブになるかならないか、ハブとして利用される、ハブを活用する、といったことがカギを握り、噂、流行、ニュースなどが拡散していく。自分がハブでなかったとしても、ハブとのつながりが重要になる場合がある。
ネットワークを構成する人員の多様性は創造性とも関連が深い。そのためには、同質なコミュニティより、様々な人々と質問できるくらいのつながりを保っておくことがよい。プロジェクトが解散してバラバラになったメンバー同士のつながりが、広がりを生むこともある。
つながりの強さが必ずしも創造性を意味するわけではない。むしろ、薄いつながりの方が効果的である。
ネットワークにはその機能を円滑なものにするための中心がある。ハブがその役割を果たすこともあるし(次数中心)、自分から他人をみるときにその中心に位置する人であることもある(近接中心)。
その一方、橋渡し的な役割として重要という人もいる。これは「媒介中心性」という言葉で表現される。情報はこの媒介中心の人を経由しやすく、そこがうまく機能しないと見た目のネットワークとしてはうまくつながっているように見えても目詰まりを起こす。
ツリー型組織ではツリーのそれぞれの階層の束ね役が媒介中心になりやすい。逆にいうと階層が多かったり接続点に問題があると効率が悪化する。そのような事態を回避するには、階層を減らして非階層のネットワークを導入する、階層はそのままにするがところどころ迂回路を設ける、といったやり方がある。
逆に、媒介中心になる人を接点にしてネットワークを分けるという考え方もありうる。また、情報によっては最短経路ではない経路の方がうまく通ることもある。特にランダムウォークに基づく中心性では最短経路ではない人を経由して情報が通ることがある。
人と人のつながりという社会や組織を構成する欠かせないものに対して、経験と照らし合わせて納得感のある部分が多く、ある意味すっきりと整理してもらった感じになる。有意義な本だった。
新書、240ページ、中央公論新社、2007/4/1
私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する (中公新書)
- 作者: 増田直紀
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/04/01
- メディア: 新書
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