密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

ITエンジニアの「海外進出」読本

著:五嶋 仁、著:高木 右近日向、監修:須藤 敏行

 

 日本企業の海外進出が盛んになるにつれて、ITシステムやプロジェクトもグローバル化している。しかし、ユーザー企業でも、IT企業においても、グローバル・プロジェクトをマネジメントできるIT人材は大幅に不足している。

 

 大変な仕事であることは想像に難くない。異なる文化、違う価値観、通じない言葉。本書は、実際に海外でのプロジェクトのPMOを長年担当してきた経験者2人が、リアルな教訓と、苦労をくぐり抜けて得られた大きなキャリアについて語った本である。

 

 構想・計画フェーズで、プロジェクトバイブルをしっかりと決め、関係者全員に浸透させる。業務要件をしっかりとまとめておく。海外は契約社会であるから、原理原則こそが重要で、後に問題になりそうなことは先にしっかり決めておくべき。そうでないと、後で法外な費用を請求される。不測の事態は頻繁に発生するので、かならず計画にはバッファを設けておく。システム移行は国内でも難しいが、海外ではさらに難しいものになりがちなので、しっかり計画を立てること。

 

 個人の違いは大きいが、国民性や地域による違いも大きい。ブラジルやインドでは瑕疵担保期間は30日が普通であるのに対して、中国は2年。外国人はバカンス優先が当たり前で、残業はしないし、休日出勤なんてありえない。中国では滞在が183日を超えると納税義務が発生するのでキーマンが途中で抜けてしまう。インド系はプライドが高く、間違いを認めない。仕様変更に柔軟に対応してくれない。

 

 インフラもひどく、停電によるサーバダウンや、クラウドにしてもネットワークがつながらないということがある。道路がガタガタで輸送中にサーバが壊れることも。

 

 日本語はあいまいなとことがあるので、最初から英語で箇条書きにして伝えるべき。仕様誤認防止のためにはシンプルな設計を心掛けるべき。仕事の後に飲みに誘っても迷惑がられるが、外国人はパーティは大好きなので都度開くようにする。個人主義であることを前提に考えること。助けるのがいいとは限らない。インドの古い階級社会とか、見えない学歴の階層とか、その国の人同士で機微がある場合があるので気を付ける。カトリック系の国とプロテスタント系の国は労働観が違う。要件の確定は現場ではなく上位の人と行うこと。マネジメントのタイプは日本は独特だが、それ以外は欧米に多い軍隊リーダシップ型と、役割を与えたらあとは進捗をチェックするだけで任せる社会協調労働型がある。前者は組織のトップを、後者は各チームリーダを抑えるようにする。エビデンスは言わないと残らない。グローバルプロジェクトでは何事もシンプルを心掛ける。

 

 基本的にERPシステムの海外での導入経験に基づいて書かれている。ただ、海外でのアジャイル開発の成功例についても書かれているところがあって、短いが、よくまとまっている。

 

 全体的に、実際の海外での豊富なプロジェクト経験に基づいて書かれているので、具体的で、現実感も説得力もある。興味深く読めた。

 

新書、198ページ、幻冬舎、2018/2/27