著:日高 洋祐、牧村 和彦、井上 岳一、井上 佳三
MaaS(Mobility as a Service)。移動が関係するすべての要素を統合的なサービス基盤として見立てた概念である。
自動車産業における代表的な4つの技術的革命を指すCASE(Connected, Autonomous, Sharing, Electricity)とも密接な関係があるが、MaaSは自動車だけでなく、列車・バスといった公共交通も含まれるし、スマートシティとも関係がある。もちろん、スマホやクラウドといったITは欠かせない。
自動車産業、交通機関、運輸業界、自治体、市民生活、観光、通信業界、FinTech、小売り、医療、介護、エンタメ、UberやLyft、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)様々なものが密接に関係し、その広がりは移動体だけにとどまらない。
本書は国内外のユースケースを多く紹介しながら、MaaSとは何なのか、それは社会の何をどう変えるのかについて解説した本である。
フィンランドにおけるMaaS Globalによる統合アプリWhim。ソフトバンクとToyotaの合弁会社。鉄道各社の取り組み。ロサンゼルス市をはじめとするアメリカの各都市の試み。NTTドコモ。自動車各社の挑戦。オープAPI。個人認証。近未来のスマートシティ。モビリティ革命と様々な業界への影響と関係。
MaaSには、スウェーデンのチームが定義した以下の5段階のレベルがあると紹介されている。レベル4はスマートシティの実現も含む。
・レベル0:統合なし
・レベル1:情報の統合
・レベル2:予約・支払いの統合
・レベル3:提供するサービスの統合
・レベル4:社会全体目標の統合
公共交通の持続可能性。マイカー依存からの脱却。期待される都市と地方の交通に関する課題の解決。大量に生まれるビッグデータの利活用。プラットフォームの価値とプレーヤーと出現パターン(独り勝ち・交通連合モデル・自由市場モデル)。競争と協調。日本版MaaSについての考察も行われている。
関係者のインタビューもある。MaaSアライアンスのシニアマネージャは、マルチモーダルがMaaSの本質だと述べている。また、国ごとに事情が違い、日本は公共交通がしっかりしていて遅延も少ないので、中国のようにシェアリングサービスが中心になるというよりは、既に整っている公共交通インフラにオンデマンドやシェアリングが加わって支払いスキームが組み込まれたワンストップのものとして発展するのではないかとしている。地域による事情や課題やユーザニーズの違いを理解して効果的に組み合わせたり実装することが重要だと説く。
4人の共著だが、よくある章ごとに役割分担して書いて合わせたというのではなく、それぞれ分担して書いた部分を協議しあって調整したという。このため、確かに共著にありがちなバラバラな感じはあまりしない。最後には「MaaSカオスマップ」がついている。
単行本、320ページ、日経BP、2018/11/22