密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

「自動運転」ビジネス 勝利の法則-レベル3をめぐる新たな攻防

著:井熊 均、井上 岳一

 

 クルマの自動運転について複数の著者が現在の世界的な開発競争の状況と、今後の見通しについて意見を述べた本。副題に「レベル3」が入っているが、これはレベル0からレベル5まである自動運転のレベルの定義を意識したものである。例えば、日産のセレナなどは既にレベル2を実現しているが、レベル1と2は実際は「運転支援」であって、「自動運転」と呼べるのはレベル3とレベル4になるからだ。

 2010年代に入って、自動運転への関心が一気に高まった。きっかけはGoogleをはじめとするIT企業の取り組みである。現在の人工知能ブームの火付け役になったDeep Learningの登場が背景にある。Googleなどは地図情報を持っている強みもある。

 自動車会社各社も自動運転に多額の投資をしている。中国はGoogleに相当するネット企業も、自動車メーカも、ITや自動車部品のメーカも有力な企業がすべて国内に存在している上に、ジュネーブ条約の縛りもないため、注目すべき存在になっている。

 自動車業界に起きている変化はそれだけではない。それぞれの頭文字をとって「CASE」と呼ばれる、コネクティッド化(C)、自動化(A)、シェア化(S)、電動化(E)の4つの革新がある。

 自動運転技術に加え、電動化となれば従来のエンジンを中心にしたクルマよりもモジュール化によって完成車メーカへの参入障壁は低くなるという見方もあることなどから、著者たちは、将来は、完成車メーカよりも、ボッシュやコンチネンタルやデンソーの方が有利な位置にあるかもしれない、という意見を述べている。

 ただ、レベル3以降となると問題は山積している。電波よりも高い精度がセンサーに求められるため、その中核となるレーザーを用いたLiDARの低価格化が必須になる。ネットにつながることによるセキュリティの懸念もある。

 実際、電子制御ユニット(Controller Area Network)はインターネットにはつながっていないことになっているのだが、実験によってハッキングができることが明らかになっている。法律の体系や、国際的なルールの調整、標準化をどうするかという問題もある。著者たちは、レベル4は実用としてよりもアピール用となり、レベル3も時間をかけて浸透していくのではないかという見方をしている。

 自動運転が実現した場合のメリットは大きい。交通事故は減ることが確実視される。レベル1に相当する自動ブレーキでさえ、事故が大きく減っている。

 

 渋滞緩和の期待もある。また、日本は少子高齢化が進み、高齢ドライバーの安全の問題や、過疎地域での交通・運用手段の確保が課題になっているから、自動運転への期待は大きい。

 将来の見通しに関する意見の賛否はともかく、まじめに書かれており、自動運転の動向について知る上で読むには悪くない本だ。

 ただ、自動運転やクルマの技術革新に関する本は今やたくさん出ているし、国のレポートなどネット上にも情報がたくさんある。それらと比べて特別な情報があるかというと、それはあまり無いように思われる。海外の情報もこの本だけが特に詳しいというわけでもないし、技術的にも詳しいというわけではないし、この本だから読めるというような情報も特にあるように思えなかった。例えば、実際に海外に飛んだりして国内外の研究者やIT企業や自動車会社の自動運転の開発責任者や行政のキーパーソンにインタビューして加えるといったような独自の工夫があれば、もっとよかったように思う。

 

単行本、184ページ、日刊工業新聞社、2017/6/30

「自動運転」ビジネス 勝利の法則-レベル3をめぐる新たな攻防- (B&Tブックス)

「自動運転」ビジネス 勝利の法則-レベル3をめぐる新たな攻防- (B&Tブックス)

  • 作者: 井熊均,井上岳一
  • 出版社/メーカー: 日刊工業新聞社
  • 発売日: 2017/06/30
  • メディア: 単行本