密林の図書室

人生は短く、経験からのみ得られることは限られます。読書から多くのことを学び、アウトプット化も本との対話の一部として大切なものだと考えてきたので、このブログを立ち上げて日々読んできた本の備忘録として活用しています。

東西名品 昭和モダン建築案内

著:北夙川 不可止、写真:黒沢 永紀

 

「いま、グローバル化が進むなかで、その弊害といわれる均質化を回避し、文化特性を守ろうとする動きが世界各国で起きているという。たしかにグローバル化と個別の文化はパラドックスのようにも思えるが、建築に限らず、優れた創作物はつねに時代性や普遍性と同時に独自性を持ち合わせているものだ。国際的なスタイルのなかに日本固有の文化を反映させようとした昭和モダン建築に、いま学ぶべきことはとても多いのかもしれない」。


 1920~30年代の日本の西洋建築を紹介した本。モダン建築を紹介した本は今や珍しくないが、この本はその中でも少し異彩を放っている。単に魅力的な建築物を紹介するということにとどまらない、著者の強いこだわりと想いが全編を貫いている。それぞれの建物紹介の文章も力が入った濃いめのもので、まるですぐそばでガイドをしてもらっているような感じがする。

  構成としては、東京圏と京阪神圏の2つの対比という取り上げ方になっている。分量的には対等だが、文章を読む限り、どちらかというと、著者の気持ちの方は関西の方により大きくかかっているように思われる。それは、必ずしも著者が関西出身だからということだけが理由ではなさそうだ。

 例えば、美しいアール・デコ様式を持っていたのに2016年に取り壊されてしまった「大丸心斎橋店」を取り上げた箇所では、「そもそも百貨店はスーパーとは違う。日常のなかの非日常、ハレの空間である。とくに心斎橋はターミナルではない。『ついで』ではなく『わざわざ』行くところだ。されば『特別な何か』がなければならない。『イオンモールと大差ないやん』では見捨てられる」というように、無念さがにじんでいる。

 このように、建物を単なる建物として鑑賞するということにとどまらず、そこに宿る文化の香りとそれを生んだ時代のモダニズムの軌跡を踏まえながら、だから我々はそれを遺さなければならないし、また今後も移り行く時代の中で、新たな文化を模索していく過程において、これらの遺産から学ぶこともたくさんあるのだというメッセージを強く感じる。

 オールカラーで、オリジナルの良質な写真が多く掲載されている。東西のモダン建築の名品を味わいながら、それにとどまらないものに触れた。

 

単行本、159ページ、洋泉社、2017/1/26

東西名品 昭和モダン建築案内

東西名品 昭和モダン建築案内

  • 作者:  ,北夙川不可止,黒沢永紀
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2017/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)